2020 Fiscal Year Research-status Report
クライオ電顕構造に基いた高機能超耐熱性ペプチドナノチューブの創製
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19K05210
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田村 厚夫 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (90273797)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ペプチド / ナノファイバー / クライオ電顕 |
Outline of Annual Research Achievements |
クライオ電顕の登場で、今まで他の手法で不可能であった非結晶性ナノファイバーの原子レベルでの構造解析が可能となった。申請者の独自技術によって創製してきた人工設計ペプチドナノチューブにこの構造解析法を初めて適用し、得られた構造に基いて新たな精密設計を行うことで、超耐熱性という形質を付与する。これにより、常温でほどよく機能するという生体物質の性質を超えて、高温高機能となる機能性生体ナノ材料を創製することは可能なのかという問いに答えるべく研究を推進する。このような材料の創製は、生体物質に本来備わっている高い選択性などの高機能を、より高速にさらにはより過酷な条件化で発揮することにつながり、生体機能を新たな局面で発揮させる新技術となることが期待される。 本年は、ペプチドナノファイバー構造について、クライオ電顕による構造解析を進展させた。ナノファイバーは結晶性のないフィラメント構造であるため、他の構造解析手法は有効ではない。さらに、機能をもたらす分子構造を解明するには、原子レベルに近い高分解能が要求されることから、クライオ電顕が唯一の構造解析法となる。具体的には、1)βシート型のナノファイバー、2)αヘリックス型のナノファイバー、3)α型からβ型へ転移するナノファイバー、の3種に取り組んだ。この結果、1)と3)の一部について、二次元像の取得に成功し、フーリエ変換でβシートに特徴的な構造である4.7Åの繰返し単位が確認され、3次元モデリングを進行中である。一方、2)および3)のα型については、観測データを取得したが、3次元像の獲得に至るまでの品質は得られなかった。これは、均一性の高いファーバーであっても、その繰返し単位の規則性が明確でないためである。また、αヘリックス形成のpH依存性を利用して、腫瘍細胞のみを選択的に攻撃するペプチドの創製につながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)βシート型のナノファイバー、2)αヘリックス型のナノファイバー、3)α型からβ型へ転移するナノファイバー、の3種の設計を行い、その合成精製後、安定性の向上と顕微鏡観察に適する均一性の高いファイバー形態の獲得に成功した。原子間力顕微鏡を用いて観察したところ、繊維形成のしやすさに違いは見られたものの、どのペプチドも繊維化することが分かった。これらのペプチドの円偏光二色性測定を行い二次構造を調べた。さらに、pH依存性およびアルコール依存性なども調べ、どのような相互作用が働くことによって繊維化しているかを考察した。最後に、繊維がどのような構造をしているのかを調べるために透過型電子顕微鏡およびクライオ電子顕微鏡を用いて構造解析を行った。まず、透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、AFMで観察されたのと同様に長さが数µm、幅が10nmほどの繊維であることが分かった。1)3)について、ピッチが140nm前後から100nm前後のらせん状になっていることも分かった。次にクライオ電顕による観測を行い、二次元平均画像および三次元構造の再構築まで進んでいる。6Åほどの分解能で解析が行われ、二次元平均画像をフーリエ変換したところ、分子間の水素結合が4.9Åと4.8Åであることが分かった。これはβシート構造の水素結合の距離と一致しており、ペプチド分子間がβシート構造と同じであることが分かった。このことから、これらは共に構造単位のペプチド分子がβストランドから構成される繊維がバンドル化した構造に近いことが示唆された。この点では、順調な進捗である。一方、2)については、ピッチが明確ではなく、2次元像の獲得までで、3次元像の取得に至る事は困難であることが判明した。この点で、このサンプルではこれ以上の進捗ができないこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2)のαヘリックス型のナノファイバーについて、熱安定性の獲得には成功したが、クライオ電顕の観測には不向きな点があった。そこで、今後は、新たなペプチド配列を設計し、均一なピッチでねじれを生じさせ、クライオ電顕による構造解析に資することとする。また、得られた熱安定性にも満足することなく、耐熱性向上のメカニズムを解明し、さらなる熱安定性の向上を論理的設計によって果たすことを目指す。
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Research Products
(5 results)