2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05241
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
野地 尚 東北大学, 工学研究科, 助教 (50180740)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 超伝導 / コインターカレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キャリアと次元性を同時に制御できるコインターカレーション(共挿入)を、種々の層状物質に施し、新規超伝導体を合成するものである。本年度は、WTe2とMoTe2に対するコインターカレーションで以下の成果を得た。遷移金属ダイカルコゲナイドのWTe2とMoTe2は、タイプII ワイル半金属の候補物質でもあることから、近年、理論・実験の双方から精力的に研究されている。本研究では、これらの物質に金属と有機分子のコインターカレーションを試み、 新規超伝導体を合成することを目的とした。 WTe2へのLiとエチレンジアミン(C2H8N2)のコインターカレーションに成功し、 新規超伝導体Lix(C2H8N2)yWTe2 (x = 0.25 - 1.5)を発見した。超伝導転移温度Tcはx = 0.5で最大3.8Kとなり、WTe2におけるインターカレーション化合物の中では最も高い値となった。 Pauli 常磁性磁化率の測定により、 Lix(C2H8N2)yWTe2のTcがフェルミ準位における電子状態密度N(EF)と非常に良く相関することから、BCS的な超伝導であることが分かった。 他方、 MoTe2へのLi とエチレンジアミン(C2H8N2)のコインターカレーションに成功し、新規超伝導体Lix(C2H8N2)yMoTe2 (x = 0.25 - 1)を発見した。WTe2と同様にTcがN(EF)と良く相関すること、及び二次元化によってN(EF)が増加することを確認した一方で、Tcはx = 0.5, 0.75で最大5.6 KとなりLix(C2H8N2)yWTe2のTc = 3.8 Kに比べて明らかに高い値となった。このTcの差は, 母体の比熱測定により、デバイ温度すなわちフォノンのエネルギーの差に起因していると推察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、溶液反応法やソルボサーマル法を駆使して、コインターカレーション(共挿入)により新超伝導物質を合成するものである。 今年度は、WTe2とMoTe2にLiと有機分子であるエチレンジアミンをコインターカレートした新超伝導物質Lix(C2H8N2)yMTe2 (M = W, Mo)の合成に成功した。遷移金属ダイカルコゲナイドにおいて、MTe2 へのコインターカレーションの成功例は本研究が初めてである。これは、一般のMTe2と違った歪んだ正八面体型配位を持つことに起因していると考えており、タイプII ワイル半金属の物性研究においても大きな成果と言える。また、両物質の物性を調べ比較することにより、これらの超伝導発現機構はBCS的なものであると結論できる。 以上の成果を得られたことにより、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきた研究により、層状物質に対するコインターカレーションは、キャリア濃度と次元性を同時に変えることができる手法であり、新規超伝導物質合成には非常に有望な手法であることが分かった。 これまでは、Fe, Mo, W等のdブロック金属を中心に行ってきたが、今後は共有結合性が強いpブロック金属にもコインターカレーションをすることで新規超伝導体探索を行う。
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Causes of Carryover |
(理由)次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことにより発生した未使用額である。 (使用計画)令和2年度未使用額は、令和3年度請求額と合わせて物品費(消耗品費)として使用する予定である。
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