2019 Fiscal Year Research-status Report
超伝導渦糸フローが生み出す新しいスピン流の理論的探求
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19K05253
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
安立 裕人 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10397903)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大江 純一郎 東邦大学, 理学部, 准教授 (40510251)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スピン流 / 超伝導渦糸 / スピンホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、超伝導体中で生じる新しいスピン流現象を理論的に探求することを目的としている。特に、これまでのスピン流研究で注目されてこなかった超伝導渦糸の自由度に注目し、超伝導渦糸に閉じ込められたスピン偏極が、超伝導渦糸フローによってどのようなスピン流を駆動するのか、を理論的に解明する。 当該年度は、超伝導渦糸フローが担うスピンホール効果の存在を証明するため、久保公式に基づいてスピンホール伝導度の計算を開始した。超伝導渦糸フローに伴う電荷ホール効果の場合、系の粒子・正孔対称性を仮定するとホール伝導度が消失してしまうことが知られている。そこで、まずはスピンホール伝導度の場合にも同様な事実が成り立つのかを検討した。 スピンホール伝導度の計算の際、電流バーテックスの評価は自明であるが、スピン流バーテックスの評価は自明ではない。そして、単純にスピン流バーテックスの主要項を取り出しただけでは、電荷ホール効果のときと同様にスピンホール伝導度が消失してしまうことを明らかとした。 次に、スピン流バーテックスのうち、スピン流の時間反転対称性と整合性のよい項に着目した。すると、このスピン流バーテックスの下では、系が粒子・正孔対称な場合でも有限のスピンホール伝導度が生き残ることが明らかとなった。 本研究で明らかとしたスピンホール効果は、スピン軌道相互作用を一切必要としていない。一方で、スピンホール効果は一般にスピン軌道相互作用の大きさに比例すると考えられている。それゆえ、本研究により、全く新しいタイプのスピンホール効果が存在することが明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画通り、まずは久保公式に基づいてスピンホール伝導度の計算を行った。そして、単純な計算ではスピンホール伝導度が消失してしまうこと、また、スピン流の時間反転対称性と整合性の良いスピン流バーテックスに注目するとスピンホール伝導度が有限に残ること、の2点を確認した。 これは、本研究課題のそもそもの出発点である「超伝導渦糸フローが作り出す新しいスピンホール効果」というアイデアが正しい方向を向いていることを示している。このアイデアの正当化により、1年目の研究計画に留まらず、2年目以降の研究計画も順調にすすめられる可能性が大いに高まったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題1年目は、超伝導渦糸フローが駆動するスピンホール伝導度の振る舞いについて、久保公式を用いて不純物散乱の弱いいわゆるクリーンリミットの状況を解析した。一方で、磁性多層膜を舞台として行われる現実の実験では、逆の極限(ダーティーリミット)の状況が実現していると考えられる。そこで、まずは現在のスピンホール伝導度の計算をダーティーリミットに拡張する作業に着手する。そして、既に報告されている超伝導体へのスピンポンピングの実験結果の温度・磁場依存性を理論結果と比較し、スピン軌道相互作用を必要としないこの渦糸駆動スピンホール効果が実験で観測できるのかを議論する。 次に、上記の久保公式による超伝導渦糸駆動スピンホール効果の結果を、時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式によって再現できるのかを探求する。超伝導渦糸フローのダイナミクス自身は時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式によって記述可能であることが知られている。そこで、スピンホール効果を生じるような相互作用項がどのようなものかを特定することを試みる。
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Causes of Carryover |
(理由)令和元年度の終盤に、新型コロナウィルスの蔓延という予期せぬ事態が生じてしまった。これにより、日本物理学会の第75回年次大会(2020年3月)が現地開催中止となってしまい、予定していた研究室メンバーの旅費が全て未使用となった。これが、次年度使用額が生じた理由である。
(使用計画)次年度、新型コロナウィルスが収まっていれば、各種の学会・会議などへ積極的に参加し、次年度使用額はこれらの旅費に充てたいと計画している。しかし新型コロナウィルスの収束が現時点では見通せないため、明確な用途は現時点では述べられない。
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