2021 Fiscal Year Research-status Report
超伝導渦糸フローが生み出す新しいスピン流の理論的探求
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19K05253
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
安立 裕人 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10397903)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大江 純一郎 東邦大学, 理学部, 教授 (40510251)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピン流 / スピンホール効果 / 超伝導渦糸 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、令和3年度の研究開始直後に、令和2年度に進めていた研究成果、具体的には渦糸スピンホール効果によるスピンホール伝導度の微視的計算結果を、T. Taira et al., "Spin Hall effect generated by fluctuating vortices in type-II superconductors", Phys. Rev. B 103, 134417 (2021)] にて無事出版した。これにより、本研究課題の柱の1つが完了したことになる。 これを受け、令和3年度はもう1つの柱である、渦糸スピンホール効果の数値シミュレーションに着手した。その結果、この研究テーマでは渦糸多体系の実時間ダイナミクスを直接相手にしなければならない一方で、現在我々のグループで保有している数値計算資源はまだまだ非力であることが判明した。そのため、昨年度の研究テーマは、より小規模な数値シミュレーションで現象の本質に迫れる、反強磁性スピンゼーベック効果の数値シミュレーションへと研究方向をシフトした。 新たなターゲットとしたスピンホール効果とは、熱エネルギーからスピン流を作り出す現象であり、特に近年、自発磁化を持たない反強磁性体のスピンゼーベック効果が大きな注目を集めている。我々は、Cr2O3という反強磁性体の高磁場で観測された、スピンフロップ転移に伴うスピンゼーベック効果の符号反転に着目した。そして、時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式のシミュレーションにより、磁性体/非磁性電極の界面で通常の磁気的交換相互作用が働く場合には信号の符号反転は生じない一方、交換バイアス効果に類似の交換相互作用(ネールベクトルと伝導電子スピンが結合する交換相互作用)が界面で働く場合には、信号が符号反転することを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数値的な負担の大きさのため、渦糸スピンホール効果の数値シミュレーションは一旦保留としたが、一方で、新たに設定した研究テーマである反強磁性スピンゼーベック効果の数値シミュレーションの研究については、順調に結果が得られた。実際、時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式による反強磁性スピンゼーベック効果の数値シミュレーションに関する成果が、Y. Yamamoto et al., "Antiferromagnetic spin Seebeck effect across the spin-flop transition: A stochastic Ginzburg-Landau simulation", Phys. Rev. B 105, 104417 (2022) として無事に出版できた。これらの理由から、研究課題は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、渦糸スピンホール効果によって駆動されるスピン流の可視化のため、まずは時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式の数値シミュレーション手法を確立することに取り組む予定である。これまでの久保公式による我々の研究によって得られた成果の1つは、渦糸スピンホール効果は渦糸ネルンスト効果に強い類似性を持つ、という点である。後者の渦糸ネルンスト効果の数値シミュレーションに関しては多くの知見が存在しているため、これらの知見を参考にしつつ、時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式の数値シミュレーションプログラムを速やかに完成させたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナの感染拡大により物理学会や国際会議などが全てオンライン開催に変更され、それによって旅費の支出が大きく減少したことが要因である。特に、当初2020年6月に米国イリノイ大学で開催予定であった国際会議(Spin Caloritonics XI)が、令和3年度も延期されたため、旅費の使用に大幅な変更が生じた。 しかし、この国際会議(Spin Caloritronics XI)が2022年5月にイリノイ大学で対面形式で実施されることが決まっている。また、米国入国や日本入国の際に新型コロナ感染の陰性証明の提出などが要求され、それに伴い国際会議参加の旅程はより時間を要し、旅費など高くつくようになってきている。それゆえ、自年度使用額の大半を、この国際会議の旅費に充てる予定である。
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