2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on spin manipulation by orbital Rashba effect and orbital moment transport
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19K05258
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
金 俊延 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (50753646)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 軌道モーメント / ラシュバ効果 / スピン操作 / スピンデバイス / 酸化物界面 / スピン共鳴 / スピン軌道トルク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で効率の高いスピンデバイス製作を目指して、「非磁性金属/酸化物」の軌道ラシュバ界面を持つ磁性三層膜における軌道モ-メント変換、輸送、またスピン操作に関する研究に取り組む。特に当年度には去年までの界面や磁性体に依存するスピン操作の効率性に関する研究を前向きで進める一方、Cu膜の自然酸化を用いて軌道モーメント輸送の変調の研究を始めた。 1.前年度のCu/MgO、Cu/SiO2界面に引き続き、Cu/TiO2やAg/Al2O3界面においても非常に効率の高い軌道モーメント変換か起こることを観測した。変換効率は各々0.25、0.1で代表的なスピン変換物質であるPtより効率が高い。 2.軌道モーメントによるスピン操作は強磁性体の膜厚に強く依存して、膜厚が厚くなるほど軌道モーメント変換の効率性も大きく変わることを観測した。この研究はCoFe/Cu/Al2O3磁性三層膜において行い、CoFe膜のわずか5nmの膜厚の増加によって、軌道モーメント変換の効率性が3倍以上倍増することを観測した。 3.スピン変換が起こるCu/Bi2O3界面を用いて同様の実験を行い、スピン変換は磁性膜の種類(Co、Fe、Niやそれらの合金)にあまり変わらないことを確認した。これは「磁性膜/Cu/Al2O3」におけるスピン操作の強い磁性膜種類依存性とは対照的なことであり、スピン操作の強い磁性膜依存性は軌道モーメントの輸送の固有の特性であることを明確にした。これまでの研究結果はPhysical Review B誌にLetterで掲載された。 4.「磁性膜/Cu/Al2O3」の磁性三層膜においてCu膜を自然酸化させ、これによって変調される軌道モーメントの輸送やスピン操作の効率性を調べ始めた。その結果変調の初期段階の実験結果を得た。これはCu膜内の酸素の総量、または酸素濃度の勾配により軌道モーメントの輸送が強く変わることを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は(i)構成物質に依存する軌道モーメントの発生、(ii)強磁性体に依存する軌道モーメントの輸送、(iii)軌道モーメントによるスピン操作の変調において研究を進み、スピンデバイス製作に資する基盤技術の構築に取り組んだ。 (i)構成物質に依存する軌道モーメントの発生:Ag/Al2O3やCu/TiO2界面を用いて軌道モーメント変換によるスピン操作を観測した。これはさまざまな「非磁性金属/酸化物」界面において幅広く効率の高い軌道モーメント変換が生じることを示す。特にTiO2は強誘電体の候補材料であるため、今後の展開に期待が高い。以上の結果は軌道モーメント変換材料の拡大に資する一方、軌道モーメント変換の由来になる軌道モーメントのテキスチャーの形成に影響を及ぼす物質パラメータの情報をもたらし、学理の構築に役に立つと期待される。 (ii)強磁性体に依存する軌道モーメントの輸送:先行研究や前年度までの強磁性体の種類、熱処理に加えて、強磁性体の膜厚が軌道モーメント変換によるスピン操作の効率性を決める重要なパラメータであることを発見した。以上の結果はこの研究の目標である効率の高いスピン操作に資する特性をもたらし、将来の軌道モーメントで作動するスピンデバイスの設計において緊要に使われると予想される。 (iii)軌道モーメントによるスピン操作の変調:当初の計画では電界の印加で軌道モーメントの変換または輸送の変調を想定した。ただし、計画を若干変更し、「磁性膜/銅/酸化物」磁性三層膜の製作中に銅膜を自然酸化させ、軌道モーメントの輸送の変調によるスピン操作の効率性の変化の観測を求めた。その結果、銅膜の酸素の流入によってスピン操作が変更される初期結果を得た。今後、前述の実験を前向きで進めば、軌道モーメント輸送の変調に関する学理の構築につながり、スピンデバイスの設計に重要なパラメータで使われると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画の通り、(i)構成物質に依存する軌道モーメントの発生、(ii)強磁性体に依存する軌道モーメントの輸送、(iii)軌道モーメントによるスピン操作の変調に取り組む。 (i)構成物質に依存する軌道モーメントの発生:前年度に引き続き、軌道モーメント変換材料の拡大やその学理の構築に取り組む。特にZnO、HfO2のようにドーピングと優れた結晶性が満たされえた場合強誘電性を持つ材料において軌道モーメントの変換によるスピン操作を求める。以上の研究で今後の応用の期待が高い強誘電材料のスピンデバイスとしての適用を求める。 (ii)強磁性体に依存する軌道モーメントの輸送:前年度に引き続き、CoFe、Feなどの磁性膜の膜厚によって激しく変わるスピン操作の効率性に取り組む。特に磁気共鳴、磁気抵抗などのさまざまな観測手法を用いて多方面で観測を行い、特色のある軌道モーメントの輸送の物性を明確にし、その学理の構築に取り組む。 (iii)軌道モーメントによるスピン操作の変調:前年度に引き続き、Cu膜の自然酸化による軌道モーメントの輸送の変調の研究を進む。特に軌道モーメントの輸送しやすいコバルト、鉄系の材料や軌道モーメントの輸送しにくいニッケル系の材料を各々磁性膜として用いて、Cuの自然酸化の程度によって変わるスピン操作の効率性を観察する。以上の研究で酸素の濃度に依存する特色のある軌道モーメントの輸送の学理の構築に取り組む。 (iv)軌道モーメントのテキスチャーや生成の直接的な観測を求める。共同研究を求める。軌道モーメントのテキスチャーの観測は 木俣基(東北大)氏との高磁場非線形抵抗測定、変換で生じた軌道モーメントの光学的な観測は松田巌(東京大)氏とのX線観測で行う。
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Causes of Carryover |
物品購入に少額が余った。次年度予算に余った金額と合わせて1,517円以上の少額物品の購入に使うつもりである。
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Research Products
(2 results)