2021 Fiscal Year Research-status Report
鉄薄膜界面の電子状態変化による界面磁気構造・相転移の制御
Project/Area Number |
19K05261
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河内 泰三 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (80401280)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 良雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (10361198)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 磁性 / 表面 / フォノン / ソフト化 / アモルファス / 鉄合金 |
Outline of Annual Research Achievements |
シリコン上のアモルファス鉄合金薄膜に関して、表面(深さ2nm)の領域の放射光メスバウアー分光を行い、57Feの核共鳴吸収係数である無反跳分率を温度領域38~300Kの範囲で測定し、アモルファス鉄合金薄膜中(深さ100ナノメートルの領域)では、300Kで無反跳分率が0.61であったのにたいし、表面近傍では300Kで0.097と見積もられ、表面近傍でのフォノンのソフト化が観測された。更に、表面近傍の無反跳分率の温度依存性から、表面近傍のデバイ温度が125±37Kと見積もられ、バルクの値である380Kに対し、デバイ温度も低下していることが判明した。 さらに、アモルファス鉄合金のバルク中のガラス転位温度は780Kと見積もられたのに対し、表面近傍のガラス転位温度は82.6-116Kと見積もられ、ガラス転位温度も表面近傍は低下していると見積もられた。 結晶薄膜にたいし、アモルファス鉄薄膜表面は、欠陥の少ない不働態皮膜を形成し耐食性が高く、表面拡散を伴わないせん断変態を起こすことで、低摩擦や高耐食性が実現していると考えられ、それには、表面フォノンのソフト化が寄与しているのではないかとよそうされていた。今回は実験的にアモルファス鉄合金のソフト化の観測実証に成功した。 表面磁性に関してもメスバウアー分光法で調べた結果、内部磁場は酸化鉄結晶のものよりも大幅に小さいことが判明し、室温では表面近傍でのみ常磁性転位することが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究には、鉄薄膜中の57Fe同位体プローブとした鉄薄膜中鉄原子の磁性・電子状態測定のためのメスバウアー分光装置を用いることが必須である。2020年度から2021年度にかけて、当該メスバウアー分光装置を設置している東京大学生産技術研究所の放射性同位体室の閉鎖に伴い、メスバウアー分光装置及び励起線源として用いている57Co放射性同位体を本郷のアイソトープ総合センターへの、移設作業が必要となった。コロナ禍による作業の遅延、法的手続きの遅延により、2021年度はメスバウアー分光装置の移設認可及び放射性同位体の譲渡譲受手続きに時間を要し、再立ち上げのための電源工事等が必要となり2021年度の大半を要してしまった。更に、放射性同位体の新規購入を計画していたが、コロナ禍で航空便の輸送に大幅な遅延が発生することが分かり、年度内の納品が難しくなり2022年度への繰越をせざるを得なくなってしまった。さらに線源の製造元がロシアであったため、ウクライナ問題のため入手に大幅遅延が発生してしまった。現在、国内線源供給会社のアイソトープ協会に依頼し、ロシア以外からの励起線源の入手を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度内に、57Co線源を入手し、Pd(57Fe-dope)及び57Fe/BaTiO3薄膜を用意し圧電効果による磁性制御をメスバウアー分光で観測することを目標とする。ウクライナ戦争で、57Co線源が入手できない場合が不安視されるので、その場合は、57Feサイトセレクティブではなくなるものの物性測定装置(PPMS)を用いてホール効果を測定することにより、磁性測定を行い、またX線回折装置を用いて、面内面直方向の格子歪みの観測を行う。
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Causes of Carryover |
所属機関に設置してったメスバウアー分光装置を放射性同位体室閉鎖に伴い、所属機関の本郷キャンパスのアイソトープ総合センターに移設する必要が生じた。メスバウアー分光用の励起線源57Coを購入するはずであったが、メスバウアー装置の移設と関連工事の遅延にともない、当該年度に57Co線源を購入することが不可能となったため、次年度への繰越を行った。低温用メスバウアー分光装置の製作もメスバウアー装置の移設の遅れに伴い、次年度への繰越となった。2022年度は、57Co線源購入及び低温メスバウアー分光装置の立ち上げを行い、予定しているFe/BaTiO3成膜試料の圧電効果に伴う磁性制御を行うことを計画している。
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