2019 Fiscal Year Research-status Report
Study on the growth of graphene on silver thin films for surface protection applicable to surface plasmon resonance biosensors
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19K05278
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Research Institution | Fukuoka Institute of Technology |
Principal Investigator |
前田 文彦 福岡工業大学, 工学部, 教授 (70393741)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グラフェン / 銀 / 化学的気相成長(CVD)法 / 表面プラズモン / 固相成長 / 非晶質炭素 / 熱分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
表面プラズモン共鳴によるデバイスの材料として最適な銀は、酸素や硫黄などとの反応性が高く、表面変成によってプラズモンの生成が阻害されて急激に劣化する。そのため、化学的に安定な原子層であるグラフェンを銀表面の保護膜とする目的で、酸化グラフェンや転写グラフェンを用いる試みがなされているが、十分に機能していない。そこで、本研究ではグラフェンを銀表面に直接成長することにより、全面を一様に覆う構造の実現を目指す。そして、形成したグラフェンの機能保護膜としての機能を検証することを本研究の目的とする。これにより、表面プラズモンバイオセンサの最適材料として提供する。 ここで、低コスト大面積グラフェンの代表的な製造方法である化学的気相成長(CVD)法は非常に有力な成長法であるが、銀表面が不活性であるため従来のCVD法ではグラフェンの成長ができない。そこで、CVD法をベースとするが、銀表面での成長材料分解を必要としない成長法によってグラフェン成長実現をめざす。このような成長法として、CVD成長において成長用基板を設置する領域の上流に材料ガスを分解する高温ゾーンを設置する2ゾーン成長法と、非晶質炭素膜を予め銀表面に形成する固相成長法を検討している。この成長法を実現するには、温度を独立に制御した2つのゾーンで構成するCVD装置が必要である。そこで、研究課題実施の初年度である2019年度は、この装置を設計・導入し、立ち上げを行った。そして、銅やニッケルを基板として用いる従来型の成長法でグラフェンの成長実験を行い、CVD装置として機能することを確認した。今後この装置を用いて提案する成長法によって成長実験を行い、2020年度にCVD法をベースとした低コストの成長法によって銀表面全面へのグラフェン形成を実現する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀表面には炭化水素などのガスを分解する触媒能がないと考えられており、通常の触媒CVD法ではグラフェン成長を達成できていない。ここで、超高真空中で原子状炭素の供給によってグラフェン成長に成功している例を参考にすると、炭素原子として供給されればCVD法においてもグラフェンの成長が可能と考えられる。そこで、CVD法をベースとして原子状の炭素を銀表面に供給する2つの方法を考えた。一つは成長用基板を設置する領域の上流に材料ガスを分解する高温ゾーンを設置する2ゾーン成長法であり、もう一つは非晶質炭素膜を予め銀表面に形成する固相成長法である。これらの成長法を実現するにはCVD装置が必要で有り、特に前者の成長法を実現するためには、温度を独立に制御した2つのゾーンで構成する装置が必要になる。 本課題実施の初年度である今年度は、上述の構成のCVD装置を設計して装置メーカーに発注し、導入した。設計に当たっては、減圧CVD法を実現するため、試料を導入する石英管に排気装置であるロータリーポンプを接続し、その石英管で温度が異なる2ゾーンを実現するために管状電気炉2台で加熱する構成とした。さらに、グラフェン成長において層数制御を行うには冷却速度の制御は重要な要因であるので、この2台の管状電気炉を移動できる機構を採用して急冷却を実現できる構造とした。このように設計した装置は10月に納品され、その後装置の立ち上げを行った。 立ち上げでは従来型のCVD法によりグラフェンの成長の確認を行った。具体的には、CVD成長法でグラフェン成長の報告があるエターノル(材料ガス)と銅またはニッケル(成長用基板)を用いて成長実験を行い、それぞれ少数層グラフェンと多層グラフェンの成長に成功した。これにより、設計した装置の機能を確認することができ、当初の目的である銀上へのグラフェン成長実験を行うステップへと進むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の2年目に当たる2020年度は、2019年度に導入したCVD装置を用いて銀上への成長実験を行う。上述のとおり銅箔を用いて少数層グラフェン成長に成功しているので、当初はこの条件をベースとする。具体的には、エタノールガスを成長材料とし、銀箔を用いて2ゾーン法により実験を行う。設定については、上流を熱分解ゾーンとして1000℃前後に保ち、銀箔温度は融点である961℃より低い温度とする。このようにして各温度依存性を調べるとともに成長ガス流量や成長雰囲気真空度の依存性、加えて基板の前処理の影響も調べてグラフェン成長を目指す。この方法で成長が確認できない場合は、第二の方法である固相成長法に移行する。本成長法については、これまで研究室において多層グラファイト成長の実績があり、非晶質炭素薄膜の形成装置については学内にあり、その条件は把握できている。非晶質炭素膜の膜厚依存性や成長温度と成長時間依存性を調べる。以上により今年度中にグラフェン成長実現を図る。 ここで、こうして成長したグラフェンも多結晶基板である銀箔を用いた成長では高品質化に限界があって欠陥の導入が避けられず、保護膜としての能力も限界がある。そのため、単結晶基板を用いて高品質化を目指したい。また、本研究では将来的な表面プラズモンバイオセンサ応用を目指しており、透明基板上へ銀薄膜を形成した構造が望ましい。そのため、次の段階ではこの2つの要求を満たすため、サファイヤなどの単結晶透明基板上への銀単結晶薄膜の形成を目指す。このため、真空蒸着により50nm程度の膜厚の銀薄膜を形成する装置を導入する。現在この装置の仕様検討中であり、10月を目指して導入できるように進めている。これによって今年度後半には銀単結晶薄膜成長を達成したい。そして、次年度に銀薄膜上の高品質グラフェンを実現し、これに対する保護膜機能の検証を行う予定である。
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Remarks |
福岡工業大学のリポジトリシステムで公開している総合研究機構研究所所報内に掲載。
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