2019 Fiscal Year Research-status Report
表面科学研究に基づく高排気速度低活性化温度長寿命非蒸発型ゲッターの開発
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19K05280
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
菊地 貴司 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 技師 (30592927)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
間瀬 一彦 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (40241244)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非蒸発型ゲッター / 非蒸発型ゲッターポンプ / 残留ガス分析 / 排気速度測定 / 無酸素パラジウム/チタン / 銀微粒子 / 電子顕微鏡 / 放射光光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
真空中で加熱すると反応性の高い表面が生成し(活性化)、残留ガスを排気する材料を非蒸発型ゲッター(NEG)と呼ぶ。NEGを利用したNEGポンプは、省エネルギー、大排気速度、無振動、軽量といった利点があり、加速器、電子顕微鏡等に広く使われている。しかし市販のNEGには、活性化温度が300℃以上、大気導入と活性化を繰返すと排気性能が低下する、といった欠点があった。本研究の目的は、排気速度が大きく、H2Oも排気でき、活性化温度が100~150℃と低く、大気導入と活性化を繰返しても排気性能が低下しない新しいNEGを開発することである。2019年度は、超高真空下で無酸素Ti、無酸素Pd、0.2原子層以下のAgを順に蒸着して無酸素Ag/Pd/Tiを開発した。150℃で3時間ベーキングしたあと室温に戻した場合の残留ガスを四重極質量分析計を用いて評価した結果、無酸素Ag/Pd/Tiコート容器では、無酸素Pd/Tiコート容器に比べて、COの分圧が低くなった。一方、H2とH2Oの分圧は、無酸素Pd/Tiコート容器の場合と比較して増加した。この結果は蒸着したAgがCOの排気を促進する一方、H2とH2Oの排気を抑制することを示す。本成果は2020年度の日本加速器学会年会およびMechanical Engineering Design of Synchrotron Radiation Equipment and Instrumentation (MEDSI) conferenceにおいて発表を予定している。また、超高真空下でのTiの蒸着後に、表面を高純度の窒素で覆って保護することにより、185℃の活性化でH2Oも排気できる新しいNEGであるN2/無酸素Tiを開発し、大気導入と活性化を3回繰り返しても排気性能が保たれることを確認した。本成果も2020年度の日本加速器学会年会にて報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、超高真空下で真空容器の内面に無酸素Ti、無酸素Pd、0.2原子層のAgを順に蒸着した無酸素Ag/Pd/Tiコート真空容器と、真空容器の内面に無酸素Ti、無酸素Pdを順に蒸着した無酸素Pd/Tiコート真空容器を製作して、150℃、3時間および150℃、24時間の2条件でベーキングしたときの真空容器内の分圧曲線を四重極質量分析計を用いて測定して比較した。その結果、無酸素Ag/Pd/Tiコート容器では、無酸素Pd/Tiコート容器に比べて、COの分圧が低くなった。一方、H2とH2Oの分圧は、無酸素Pd/Tiコート容器の場合と比較して増加した。この結果は蒸着したAgがCOの排気を促進する一方、H2とH2Oの排気を抑制することを示す。 また、超高真空下で真空容器の内面に厚さ440 nmの無酸素Tiを蒸着したのち、乾燥窒素を導入して反応性の高いTi表面を保護する手法で、新しいNEGであるN2/無酸素Tiを開発した。N2/無酸素Tiコート真空容器を185℃、6時間ベーキングして、圧力が10-8 Pa台に到達したところで封じ切ったところ、H2Oの分圧は検出限界(1×10-10 Pa)以下になった。次いで乾燥N2導入、真空排気、185℃、6時間ベーキングのサイクルを繰り返したところ、5回目までは、H2Oの分圧は検出限界(1×10-10 Pa)以下であった。以上の結果から、本研究の目的である排気速度が大きく、H2Oも排気でき、活性化温度が100~150℃と低く、大気導入と活性化を繰返しても排気性能が低下しない新しいNEGとしては、N2/無酸素Tiが有望であることがわかった。 また、無酸素Pd/Tiを利用したICF203ゼロレングスNEGポンプを開発し、排気速度の活性化温度依存性測定、耐剥離特性評価などを行った。これらの成果は学会等で発表するとともに、プロシーディングス2報に報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究によって、本研究の目的である排気速度が大きく、H2Oも排気でき、活性化温度が100~150℃と低く、大気導入と活性化を繰返しても排気性能が低下しない新しいNEGとしては、N2/無酸素Tiが有望であることがわかった。2020年度は、NEG蒸着装置、NEGコート真空容器の残留ガス分圧測定装置、NEGポンプ排気速度測定装置等の改良を進めるとともに、NEGポンプ耐久性評価装置を開発する。さらに、N2/無酸素Ti コートした真空容器のベーキング中およびベーキング後の分圧測定、N2/無酸素Tiを利用して製作したNEGポンプの排気速度の活性化温度依存性測定を進める。また、100~150℃の活性化温度でH2Oも排気でき、大気導入と活性化を繰返しても排気性能が低下しないNEGを実現するために、N2よりも活性NEG表面の保護に適したガス種の探索、Tiよりも優れたNEG性能を持つ金属あるいは合金の探索、最適のNEG蒸着条件の探索、最適の表面保護ガス導入条件、最適の活性化条件の探索を行う。また無酸素Pd/Tiを利用したNEGポンプについては、NEGポンプ形状の最適化、無酸素Ti蒸着条件の最適化、無酸素Pd蒸着条件の最適化、大気導入と活性化を繰返したときの排気速度測定、産業応用の推進を行う。研究成果は日本加速器学会年会、応用物理学会学術講演会、日本表面真空学会学術講演会、日本放射光学会年会等で発表するとともに、J. Vac. Sci. Technol. Aなどの学術誌、日本加速器学会プロシーディングスに報告する。2021年度は、すべての条件を最適化した新しいNEGの表面・界面構造を電子顕微鏡で観察するとともに、軟X線放射光光電子分光による表面組成・化学分析を行って、さらに低い活性化温度と高い排気性能と耐久性を備えた新しいNEGを開発するための指針を確立する。
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Causes of Carryover |
2019年度はNEG蒸着装置、NEGコート真空容器の残留ガス分圧測定装置、NEGポンプ排気速度測定装置などの改良に使う真空部品を購入した。一部既存中古品の流用などを行い、経費を削減したため差額が生じた。2019年度から繰り越した予算は当初の2020年度予算と合わせて、NEG蒸着装置、NEGコート真空容器の残留ガス分圧測定装置、NEGポンプ排気速度測定装置などの改良およびNEGポンプ耐久性評価装置を開発にかかる真空部品の購入、Ti蒸着源やNEG表面保護ガスなどの消耗品の購入、実験補助を担当する技術補佐員の雇用、成果発表のための国内旅費、英文論文の校閲費、論文投稿費、学会会費などに使用する。
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Research Products
(9 results)