2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of the technique for operando electronic state analysis by using tender x-ray spectroscopy
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19K05281
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
今園 孝志 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 次世代放射光施設整備開発センター, 上席研究員(定常) (50370359)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | テンダーX線分光 / 多層膜回折格子 / 電子状態分析 / オペランド測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
薄膜デバイスの機能性や劣化等のメカニズムの学理解明には、機能性を担う物質の電子状態を実動作環境下で非破壊的に分析(オペランド計測)することが必要である。数μm程度の探査深度を持つ1~4 keV領域のX線を励起光及び検出光に用いるX線分光技術は、電極等で覆われた「埋もれた層」であっても元素選択的にオペランド計測できる。当該エネルギー領域は近年テンダーX線と呼ばれ、海外では高輝度なテンダーX線を供給できる3GeV級放射光源を用いたオペランド計測が進展してきている。わが国でも新たな3GeV級放射光施設の建設がスタートした。本研究は、今後ますます活発化することが見込まれるテンダーX線分光計測技術を開発し、薄膜太陽電池等のオペランド電子状態分析に有用であることを実証する。 申請者は、独自開発した非周期Ni/C多層膜を回折格子にコーティングすることで1~3.5 keVの幅広いテンダーX線を同時に分光計測できる平面結像型回折格子分光器を開発した。本分光器のエネルギー分解能E/ΔEは100~300で、エネルギー分散型X線分光器に比して約10倍高い分解能で定性分析できるが、化学シフト分析や状態分析にはエネルギー分解能が不十分であった。 本研究では、上記の先行研究で不十分であった検出エネルギー範囲を4 keVまで拡張し、高エネルギー分解能化(E/ΔE > 2000)することを目指し、今年度は、(1)分光光学系の検討、(2)広エネルギー帯域多層膜および多層膜回折格子の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、2 keV以上の高エネルギー側において低下する回折効率と分解能を如何にして向上させるかが課題達成の鍵である。その基盤技術は申請者らが見出した非周期多層膜コーティングによる広エネルギー帯域化技術である。この先行技術に基づき、新たな光学設計に基づく広帯域多層膜光学素子を搭載した高分解能テンダーX線分光器の検討を行った。具体的には、集光と分散(分光)を個々の光学素子が担うHettrick-Underwood型スリットレス平面結像分光器を設計し、光線追跡によりその光学特性を見積もった。その結果、1~4 keVの全領域でE/ΔE > 2000を達成する光学設計であることが分かった。しかし、使用する二次元検出器の空間分解幅には6μm以下が要求され、これが高分解能化の律速となっている。例えば、従前開発した分光器と同一規格の検出器(20μm)を用いた場合、E/ΔE > 600まで低下するが、それでも2~3倍程度分解能の改善が期待できる。 テンダーX線で使用する回折格子には非周期多層膜コーティングが不可欠である。一般に集光鏡にも多層膜コーティングが求められるが、入射角によっては単層膜でも十分なスループットが期待できると考えた。そこで、集光鏡のコーティングとして非周期Ni/C多層膜(入射角88.2°)の場合とC単層膜(入射角89.6°)の場合を検討した。その結果、C単層膜は1~4 keVのほぼ全域で多層膜より一桁程度高いスループットを示すが、取り込み角まで考慮するとゲインが1/4程度低下し、一長一短があることが分かった。また、分光装置として現実的なミラー長も考慮する必要もある。今後より詳細な検討を引き続き行い、光学素子の仕様を策定する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、非周期Ni/C多層膜光学素子(回折格子、前置鏡)を製作する。多層膜光学素子はイオンビームスパッタ法を用いて成膜し、所望の膜構造が得られることを確認する。次いで、放射光源を用いて光学素子の性能評価実験を行う。光源は、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光実験施設(Photon Factory:PF)の二結晶分光器ビームラインBL-11B及び回折格子分光器ビームラインBL-11Dを用いる。これに先立ち、PFの共同利用実験の課題申請を行う。なお、BL-11Bでの実験は申請者らが独自開発した反射率計測装置を持ち込む必要がある。測定精度や再現性の向上に加え、ビームタイムの有効利用の観点から当該装置のアライメント調整機構等の改良を行う。 最終年度は、光学素子の開発と並行してオペランド計測用X線分光装置を開発する。レーザー励起プラズマX線光源の線幅計測を行い、装置の分解能を評価する。更に、薄膜太陽電池のオペランド実験で使用する照明付電池特性評価ユニットを製作し、実動作中の薄膜太陽電池の含有元素ごとの吸収端近傍における発光及び発光収量スペクトルを計測し、発電・非発電時の化学結合状態の差異、バンドギャップ等を評価し、本計測法の有用性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
高分解能化と広帯域化を実現しうる有効な方策としていくつか候補を挙げることができたが、最終的にどの仕様が良いのかを決定するには至らず、回折格子、集光鏡を発注できなかった。また、光学素子を搭載する分光器チェンバ等の仕様策定も遅れたために発注に至らなかった。さらに、新型コロナウィルス感染予防策として出張を伴う会合・打ち合わせ等の参加を見送ったことで旅費を執行できなかった。 次年度の研究費の使用計画としては、光学素子、分光器チェンバの製作費、反射率装置機器の改造費、PFまでの輸送費、旅費(会議参加費を含む)、消耗品費等に用いる。
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Research Products
(2 results)