2019 Fiscal Year Research-status Report
Po-210線源によるα線マイクロ照射制御検出システムの開発とその応用
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19K05284
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
戸崎 充男 京都大学, 環境安全保健機構, 准教授 (70207570)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
角山 雄一 京都大学, 環境安全保健機構, 助教 (90314260)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Po-210 / マイクロα線源 / シングルイオン / 裏面照射型CMOS / 2次元位置検出 / 照射制御 / 細胞照射 / エネルギー測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年生物の放射線影響の研究は、外見的な身体的影響から細胞分子レベルの影響へと移ってきた。その中で加速器を用いた新規なイオンの細胞照射実験研究に注目が集まり、加速器の生物学分野への新しい研究手法の開拓が世界中で試されている。しかし、これらの実験手法は、通常の生物系研究者が簡単に研究を推進できる方法ではない。また加速器は高価な装置設備であるだけでなく、生物系研究者にとって基礎研究を広げていく汎用装置として使いこなすのは難しい装置である。 本研究の学術的問いは、加速器などの大型装置のイオンビームでなく、分子生物研究者は、通常の顕微鏡下の実験手法の延長としての実験環境(マイクロ照射制御システム)を求めている、という点である。この問いは、分子生物学の研究者の現状に即した研究ツールの要求であり、本研究では、研究者のアイディアに対応できる装置として、シングルイオン照射を探針とした細胞の生命機構の解明に応用されることを目的に「Po-210線源によるマイクロ照射制御検出システムの開発」を推進している。 本研究で、α線源のシングルイオン照射法と2次元位置検出法を確立し、光学顕微鏡への組み込み、光学観察と照射制御を両立させるシングルイオン細胞照射のin situ 実験装置の開発をする。イオン照射にマイクロサイズのα線源(Po-210)を開発し、ビデオ素子を改造してμmの照射位置分解能で2次元の照射位置と照射イオン個数を制御し、さらにその照射イオンのエネルギーを決定(測定)できるシステムの開発を進める。 当該年度は、計画の初年度であり、細胞照射の念頭に、まずシングルイオン照射検出に焦点を絞り、マイクロ線源の試作版にAm-241を用いて照射検出器の開発を行い、各部品の設計および作動テストをした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、本課題の初年度である。シングルイオン照射検出と制御に焦点を絞り、主要構成(線源、検出、制御)の各機能設計および作動テストをし、ほぼ初年度に計画した目標を達成できた。 1.線源の作成:シングルイオン照射用線源は、ピンホール等でコリメートして強度1~10 cpsマイクロ線源を作成する。今年度は数μm径のガラスファイバーに封じ込めた方法、ステン板ピンホール等といろいろ試作した。その結果、石英ガラス板が有効であることがわかり、石英ガラス板(0.2mm厚)にテーパーの穴(上部径90μm下部径8μm)でα線をコリメートするマイクロ線源の開発進行中である。検出器等の作動チェックには、Am-241線源をコリメートして希望の照射強度のα線源として使用した。 2.制御(シャッター):シングルイオン(α線)の照射個数の制御のために、遮蔽に十分な厚み(0.3mm)のステンレス板(10x15mm)を使用したシャッターを作成した。このシャッターは線源と検出器の間に設置し、照射制御を遠隔操作で電磁的にOn-Off (回転式にIn-Out)出来る。 3.検出器(エネルギー測定および照射個数):検出器の開発はAm-241線源(エネルギー5.8MeV)の強度1-100 cps を使用した。エネルギー測定はSi半導体検出素子を遮光して大気中で作動させ、検出器と線源の間約3mmにシャッターを入れ照射の制御をした。エネルギー分布測定さらに照射Heイオン数の計測出来る仕組みが構築できた。 4.照射位置の検出器:撮像素子cmos(裏側入射型:Sony IMX178、ピクセルサイズ2.4μm、画素1920x1080)のカバーガラス等を除去して、α線を直接撮像素子に入射させ照射シングルイオンの輝度スポットの撮像に成功した。スポットサイズは約5μm径で、位置分解能は1μm以下である。
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Strategy for Future Research Activity |
マイクロα線源の作成とシングルHeイオン検出機構(エネルギー、照射個数)を完成し、これらを光学顕微鏡に組み込み、α線源からのシングルイオンの照射・制御・検出の基本的機能の作動(連携)の完成を目指す。 Po-210核種によるシングルイオン照射用のマイクロ線源を完成させる。この線源は、光学顕微下に設置するために、石英ガラス板(0.2mm厚)にテーパー付きの穴(上部径90μm下部径8μm)を通し、Po-210からのα線をコリメートするマイクロ線源を作成する。石英ガラスの穴へは、Po-210を1μ細線の先への取り付け(電着)、穴に閉じ込める。さらに、このα線源に照射onとoffの切り替え用の電磁シャッターを取り付け、シングルイオン照射を制御できるようにする。 照射α線の検出器として、撮像素子(裏面照射型cmos:IMX178)を改造し、解像度2-8μm画素サイズの位置分解能をもつ検出器さらにエネルギー校正用にSi半導体検出器を用いる。1秒間に1-10個のα線(Heイオン)照射を制御し、照射したα線を撮像cmosビデオ素子で測定し画像処理して2次元の照射範囲(約5mm x 5mm)で照射位置が検出できる仕組みを完成させる。 マイクロ線源は対物レンズの光軸上セットし、回転盤を取り付け、光軸上の盤に改造した撮像素子(二次元位置検出、エネルギー測定)、半導体荷電粒子検出器(エネルギー校正)、およびブランク(光学顕微鏡としての細胞観測用ホール)を取り付け、検出器を選択(レボルバー式)できるように既存光学顕微鏡を改造する。最終的に、Po-210のマイクロ線源と撮像素子による検出器を細胞照射実験用に最適化し、個々の機能を有効に発揮できる光学顕微鏡システムを構築し、具体的に細胞にα線の照射実験を行ってその有効性を調べ、このマイクロα線照射検出制御システムの検証実験を行う。
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Causes of Carryover |
マイクロα線源、検出器(エネルギー、照射個数)および制御機構を光学顕微鏡に組み込み改造し、照射検出制御の機構の最適化を行う。 細胞照射を念頭にマイクロ線源を光学顕微鏡に組み込むにあたり、細胞観測光と照射の操作(顕微鏡下での調整)の両立を考慮すると、検討中の石英ガラスに封じ込めるマイクロ線源の作成は重要であり、その石英ガラスに組み込んだ線源の完成(最適化)にはまだ工夫の余地がある。Po-210核種は、本施設でPb-210から分離精製したPo-210を使用し、自作での線源作成(電着、蒸発乾固等の作業)となる。電磁シャッターも光学顕微鏡下での運用を考えて、透明な素材(プラスチック、ガラス)等の改造を行いたい。 現在、シングルイオン照射位置測定に、裏面照射型cmos素子(IMX178)を改造して活用している。その他の有効な素子も試したい。シングルイオン照射位置を動画でスポット撮像し、照射位置を輝度スポット(4~9ピクセルの塊のスポット)として測定している。この測定データを解析(粒子解析)し、正確な位置(輝度スポットの重心)の決定法の確立、また照射輝度スポット強度の評価から、輝度とエネルギーの関係を明らかにするために撮像設定(パラメータ)の最適化を行う。そのために必要な画像(撮像)および解析関連のアプリケーションを導入し、本システムの画像処理(解析手法)確立する。
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