2020 Fiscal Year Research-status Report
Po-210線源によるα線マイクロ照射制御検出システムの開発とその応用
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19K05284
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
戸崎 充男 京都大学, 環境安全保健機構, 准教授 (70207570)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
角山 雄一 京都大学, 環境安全保健機構, 助教 (90314260)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Po-210 / マイクロα線源 / シングルイオン / 裏面照射型CMOS / 2次元位置検出 / 照射制御 / 細胞照射 / エネルギー測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、シングルイオン照射を探針とした細胞の放射線影響の実験に応用されることを目的に「Po-210線源によるマイクロ照射制御検出システムの開発」を推進し、新規な実験手法の提供を目指す。生物系実験室で可能な実験環境として、シングルイオン照射に放射性同位元素(Po-210)のα線を用い、また細胞の光学的観察とイオン照射制御および照射位置測定を両立させるために、光学顕微鏡へ照射制御、照射位置及びエネルギー測定装置を組み込む。 本年度(2年目)は、初年度に開発作製した本システムの主要部品(マイクロ線源、エネルギー測定、照射位置測定、照射制御、光学観測、撮像)を、既存の光学顕微鏡を改造してこれらの部品と統合し、装置全体として機能的に作動するシングルイオン細胞照射実験装置を開発した。特に機能部品(線源、試料観測台、検出装置類)は、位置あわせ(XYZ軸ステージ)等の制御が独立して出来る設計にしたので、全体のシステムとして機能別に改造が容易な構造であり、目的に合わせて最適化が可能なシステムなった。つまり、研究の推進および探求テーマにより、より高精度の機能(装置)に展開することが可能である。次年度(最終年度)は実際の細胞照射実験を具体的に2,3テーマ掲げ、それに最適化した装置の改良も含めた照射実験を予定している。 現在達成しているシステムの特徴は、Po-210マイクロ線源部(数百μmのPo-210線源とμオーダーのコリメータ)およびそのX Y位置制御、分解能2.4μmピクセルのビデオ素子による照射位置の撮像(照射位置のその場観測:ビデオ撮影)、Si半導体検出器によるエネルギー測定、光学顕微鏡でサンプル(細胞)観測が可能である。特に、マイクロ線源部をガラス(透明)に組み込んだことにより、観察系と測定系の軸合わせが容易になり、また線源とサンプルの同時(光学的)観測が可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は本課題の2年目である。初年度に設計開発した照射制御検出の部品と光学観測用の顕微鏡を統合し最適化して、目的とする装置システムをほぼ完成することができた。 当初、システムとして構築する際、連動して機能するシステムの設計をしていた。既存の顕微鏡をベースに改造して、主要部品を有効に組み込もうとしたが、最適化を進めるうちに難点が多々見つかった。例えば、観察系の軸と測定系の軸合わせ、設置及び可動スペース、あるいは照射撮像と光学的観察の手順の問題(複雑で実用でない)があり、既存の顕微鏡に沿って構築することを断念した。 個々の主要な部品(線源部、試料台、検出器、顕微鏡)をコンパクトで独立系にし、個々を調整できるステージ上に組み込む設計にした。具体的には、既存の顕微鏡に寄るのではなく、レールおよび回転軸に個々の部品を設置し、かつ個々の位置はXYZステージで独立に調整できるようにした。この基本設計により、最適化の改造がスムーズになり、また操作性も格段によくなった。 さらに、工夫をした重要な箇所は、光学的観測と照射制御測定の共存で、実際には、光(観測光路)を遮断する構造を避けた。例えば、線源(φ0.1-0.3 mm)はガラス板に埋め込み、コリメータ(10-20μm)も鉛ガラス板のキャピラリとした。さらに、シャッター板(遠隔操作)もガラス板(0.1mm厚)に改造した。これによりシステム全系を照射状態と同じ状態で観測が出来る。これら照射系と観測系の両立はこの装置のメリットである。既存の顕微鏡対物レンズレボルバーに長作動対物レンズを取り付け、作動距離を20-30mm取ることが出来るように改良した。このスペースが確保できることで、照射時の撮像(エネルギー測定)装置と細胞観測装置の共存が可能で、実験中の観測測定条件を崩すことなく、装置のIn/Outで切り替えが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、Po-210α線源からのシングルイオンの照射・制御・検出の基本的機能の作動(連携)はほぼ完成している。 次は、実際の細胞照射実験を行い、実験が求めるデータ(測定)結果が得られるか、またそのテーマに合わせて改良および最適化をさらに進める段階に来ている。具体的には、装置の概要、特徴を生物系の研究者グループ(分担者:角山とその周辺)にして、具体的テーマに沿って、本システムの検証実験を行う。 装置開発サイドで残っている課題および懸案は、照射範囲をどこまで限定するか、あるいは、照射の仕方のオプションである。現状は、100μmオーダーのエリアに秒数個の頻度でシングルイオン照射できる。あるエリア内での照射に限られるが、照射された位置(スポット)は、リアルタイムで数μmの精度で位置を特定できる。照射範囲は、最終的にマイクロ線源のコリメータと照射個数(頻度)の兼ね合いで決まり、実験の要請から改良していく事になる。 また、本システムは、サンプル(細胞)を透過したα線を観測するシステムである。したがって、水の厚さ換算で30μm以上のサンプルは測定が難しい。逆に、この要請で実験サンプルに制限がかかるが、細胞の培地の取り扱いで、つまり、サンプル(細胞)の対応で回避できると考えている。この点は、その専門家と最適解を探すことになる。あと、残る懸案(課題)は、データ解析、つまり撮像(イメージ)等の観測データの有効な収集と後の解析方法である。このデジタル(数値、画像)の収集も物理系(計測系)の手法と生物系の研究者との相違があるところで、データ収集、解析を具体的な実験を通してして検討しシステムの活用方法に反映させる必要がある。 実際の細胞照射実験を具体的に2-3テーマ決めて、それに最適化した装置の改良も含めた照射実験を行い、マイクロα線照射検出制御システムの検証実験を行う。
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Causes of Carryover |
照射サンプルとして細胞を考えているので、細胞自体の入手だけでなく、細胞観測と照射の操作(顕微鏡下での調整)の両立を考慮し、細胞の容器および照射時前後の細胞の取扱の操作に必要な器具、薬品等が必要となる。石英ガラスに封じ込めるマイクロ線源およびコリメータは重要であり、その加工にはまだ工夫の余地がある。それに必要な透明な素材(プラスチック、ガラス)等の改造およびキャピラリーの径(6-30μm)の異なるプレートをコリメータとして試したい。シングルイオン照射位置の測定に、裏面照射型cmos素子(IMX178)を使用しているが、その他の有効な素子(分解能、感度)も試したい。このイメージセンサーのカバーガラス除去には特注加工が必要となる。 イオン照射位置は、動画でセンサー上のスポットとして撮像し、照射位置は輝度 (4-10ピクセルのスポット)として測定できる。この撮像データを解析し、正確な位置(輝度スポットの重心)の決定法の確立、また輝度スポット強度の評価から、輝度とエネルギーの関係を明らかにすることが出来る。そのために必要な画像(撮像)処理および解析関連のアプリケーションを導入し、本システムのために必要な画像解析手法を確立する。
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