2020 Fiscal Year Research-status Report
光活性型蛍光分子の多段階多光子過程を利用した蛍光顕微鏡の開発
Project/Area Number |
19K05312
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
須田 亮 東京理科大学, 理工学部物理学科, 教授 (80250108)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 蛍光顕微鏡 / 光活性型蛍光分子 / 多光子励起 / 逐次的過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体組織の深部観察を可能とする二光子蛍光観察技術の進歩には目を見張るものがある。しかし、二光子励起蛍光顕微鏡においても背景光の発生が深部観察の障害となり、観察可能な深さが制限されている。すなわち、試料の表面近傍で発生する背景光の強度が目的とする深部からの信号光を上回ることが深部観察を制限する要因である。本研究課題では、二光子励起蛍光顕微鏡において蛍光標識となる蛍光分子に光活性型蛍光タンパク質を用い、二段階の二光子過程、すなわち逐次的四光子過程として蛍光発光させることにより、背景光を十分に抑制した高解像度の深部観察を実証することを目的とする。 昨年度、背景光の発生は励起光のパルス幅に依存することを見出した。マウス脳を模擬した試料では、120 fsの励起パルスより8 fsの励起パルスで観察した方が到達深度が30%ほど大きくなり、これは、同じ深さを観察するにあたり、励起光の平均パワーを1桁低くしても済むという画期的な結果である。また、蛍光タンパク質の光褪色を抑制する上でも好都合である。 今年度は、非線形フーリエ変換分光法により光活性型蛍光タンパク質 Dronpaの二光子励起スペクトルと二光子光変換スペクトルを測定し、超短パルス励起光を用いたときの励起効率を検討した。その結果、波長800 nm近傍の光変換光と 950 nm近傍の励起光を同時に照射しても問題なく、両スペクトル帯域を含む 10 fs以下の超短パルスが効果的であることを見出した。一方、初期状態として暗状態の光活性型蛍光タンパク質を準備することが困難であり、タイムラプスイメージングなどで反復して用いるには照射方法を検討する必要が生じた。試料の表面からどの程度の深さまで背景光が生じているかを実験的に検証するため、深部観察の模擬試料としてアガロースゲルに埋め込むための光活性型蛍光タンパク質で染色した蛍光ビーズを新たに作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年末、実験に使用していたレーザー装置に不具合が生じたため、修理・点検に出すこととなったが、国内で原因が明らかとならなかったため、製造会社の本社工場がある英国に送り返した。しかし、修理が完了する前にコロナ禍により製造会社及び傘下の部品供給会社の活動が停止し、保留となったまま年度をまたぐこととなった。結果として、2020年7月に修理から返ってきたものの、この前後を含め研究計画に大幅な軌道修正が強いられた。幸いにも、大学の共用機器である市販品の二光子顕微鏡が利用できたことから、これを用いて背景光の発生が励起光のパルス幅に依存することを明らかにすることができた。しかし、当初予定していた二光子光変換スペトルの測定などを再開し、十分なデータを取得するために時間を要することとなった。一方、蛍光ビーズを用いた模擬試料の作成に注力することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
光活性型蛍光タンパク質で染色した蛍光ビーズを用いた模擬試料を作成し、逐次四光子過程による深部イメージングを実証する。光活性型蛍光タンパク質の初期状態を“OFF”状態と“ON”状態で切り替えることにより、逐次的四光子過程と従来の二光子過程の間で到達深度を比較する。また、試料の深さ方向に“OFF”状態と“ON”状態の分布を形成し、表面からどの程度の深さまで背景光が生じているかを実験的に検証する。本研究課題では、模擬試料を用いた実験にとどめる予定であるが、順調に進捗した場合は小動物を用いた深部観察実験も視野に入れている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により当初予定していた旅費を消化できなかったことから、2021年度に回すこととした。ただし、状況が変わらない場合は使途を変更する予定である。
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