2019 Fiscal Year Research-status Report
半導体量子構造による円偏光の高偏極長スピン寿命電子への変換
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19K05313
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
竹内 淳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80298140)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン偏極電子源 / スピン緩和時間 / 化合物半導体 / 半導体量子構造 / 量子井戸 / 時間分解測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
半導体中のスピンの自由度を利用すれば従来のエレクトロニクスでは実現できなかった新しい機能をデバイスに付加できる。特に円偏光からスピン偏極電子への高効率の変換の実現は新たな光スピントロニクスデバイスの開発に重要である。また、この変換の実現によってスピントランジスタ等の動作実証に不可欠の高いスピン偏極率を持つスピン偏極電子の注入も可能となる。本研究は、半導体量子構造を用いて「円偏光」を「高いスピン偏極率を有するスピン偏極電子」に変換し半導体中に注入することを目的とする。 今年度は、スピン偏極電子源に用いる半導体量子構造の候補として、GaSb/AlSb多重量子井戸のスピン緩和時間を測定した。二種類のGaSb量子井戸の井戸幅は、13.4nmと48nmである。チタンサファイアレーザーとオプティカルパラメトリック発振器を光源とする時間幅サブピコ秒の光パルスを用いたポンプ・プローブ測定の結果、10Kでのスピン緩和時間は47ps(井戸幅:13.4nm)と164ps(井戸幅:48nm)であり、300Kではそれぞれ6.7 psと7.6psまで高速化することが分かった。この量子井戸のバンドギャップエネルギーは波長換算で1.5マイクロメーターになるが、この波長域でのスピン緩和時間の測定は、我々が測定したInGaAs/InP量子井戸以外には測定例が少なく新しい知見が得られたと言える。また、光通信用発光デバイス等への応用も期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
円偏光の照射によってホール準位から電子を光励起する場合、ヘビーホール準位からの励起とライトホール準位からの励起で電子スピンの向きが逆になる。したがって、円偏光を高いスピン偏極率を有する電子に変換するためには、ヘビーホールとライトホールの量子準位をエネルギー的に分離し、ヘビーホール準位のみを選択的に光励起するのが望ましい。従来のスピン偏極電子源ではこの両エネルギー準位の分離のために歪構造が用いられているが、本研究では井戸幅の狭い量子井戸を用いることに特徴がある。 スピン偏極電子源に用いる半導体量子構造の候補として、GaSb/AlSb多重量子井戸のスピン緩和時間を測定した。二種類のGaSb量子井戸の井戸幅は、13.4nmと48nmである。この量子井戸の低温でのバンドギャップエネルギーは波長換算で1.5マイクロメーターを超えるので光通信用発光デバイスへの応用も期待できる。オプティカルパラメトリック発振器を光源とするポンプ・プローブ測定の結果、10Kでのスピン緩和時間は47ps(井戸幅:13.4nm)と164ps(井戸幅:48nm)であり、300Kではそれぞれ6.7 psと7.6psまで高速化することが分かった。この量子構造の応用上のポテンシャルについてはさらに調べる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
井戸幅が狭いとスピン緩和時間が短くなるので、これを解決するために狭い量子井戸で作ったスピン偏極電子を幅の広い量子井戸にトンネル効果を利用して移して長寿命化を図る。この目的のために、Type-IIトンネル双量子井戸のトンネル時間とスピン緩和時間を調べる予定である。Type-IIトンネル双量子井戸では、タイプI型量子井戸(GaAs)の隣にバリア層(AlGaAs)を介してタイプII型量子井戸(AlAs)を積層している。タイプI型量子井戸に光励起されたスピン偏極電子はタイプII型量子井戸のX点にトンネルする。その結果、電子とホールが空間的に分離されることによって交換相互作用が減少するので、長いスピン緩和時間が期待される。 また、高いスピン偏極率と長いスピン緩和時間を実現する半導体量子構造として、GaSb/AlSb多重量子井戸を含む新たな量子構造の応用可能性の検討も進める。
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Causes of Carryover |
本研究は、半導体量子構造を用いて円偏光を高いスピン偏極率を有するスピン偏極電子に変換し半導体中に注入するスピン偏極電子源の実現を目的としているが、測定対象は化合物半導体の量子構造であり、主な測定手法としては、レーザー光を用いた時間分解測定を行う。2019年度は、時間分解測定に必要な光学部品の対応波長の検討と測定に必要とされる電子機器等の検討、ならびに、測定対象である半導体量子構造の設計の過程において、それぞれの最適化に比較的時間を要したことから、当初2019年度に使用予定であった予算の一部を次年度使用とし、研究目標の達成のためにより効果的な使用を図ることにした。
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