2020 Fiscal Year Research-status Report
双非等方物質からの電磁応答におけるトポロジカル効果
Project/Area Number |
19K05319
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
井上 純一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (90323427)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 双非等方物質 / 電磁応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は双非等方物質を対象とし,そこからの電磁応答を議論する.この系は,マックスウェル方程式とは独立に導入される構成方程式が,電場/電気分極と磁場/磁化の交差項を持ち,かつ空間的にも非等方であるという特徴を持つ点で,考えられる範囲で最も一般的な状況に相当する.この特徴をもつ構成方程式は,トポロジカル量で特徴付けられるアクシオン電磁気,非相反応答を示すデバイスとして知られるジャイレータにおいても共通に現れる.本研究の目的は,電磁応答の面で等価と考えられるこれら3者の系同士の関係を明らかにし,各分野の理解/成果を他分野へ翻訳する作業を通じて,移植によって発現する新規現象を理論的に模索し,とくにトポロジーによる特徴づけの可能性を探ることにある. トポロジーの視点を持ち込むには,微分幾何学などを記述言語にすることが標準的であり,これについては,系の有する対称性と,構成方程式内に含まれる各要素同士が満たすべき関係式との対応が明らかになりつつある. 一方,ジャイレータを扱う基本分野の1つがマイクロ波領域の電磁応答であるが,1960年代から,誘電体スラブなど開放系での電磁波の問題を等価回路の問題として理解する独自の論理展開がなされており,これの習得に注力した.この開放系の議論は物質系の散逸とは別に,固有値問題としてみたときには複素固有値の発現として特徴づけられる事が分かった.電磁場の現象としては輻射を意味し,エネルギー保存の観点から自然に要請される輻射条件が,近年,トポロジカルな視点でも盛んに議論されている非エルミート系で想定される人工的な境界条件に一致していることが明らかになった.このことは,本研究課題で想定する各分野が一層深いところで本質的なつながりを持っていることを意味する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目は,対象とする3分野間のうち,とくにジャイレータを記述する交流回路分野での関連項目の深い理解に努めた. その際,4端子回路論の重要性を認識し,以前より共同研究を行っている有機ナノファイバー光学研究者が作成した4端子ナノファイバー回路での実験結果を新たな知見として取り込もうとしたところ,当初全く予期していなかった思わぬ発見に遭遇し,その実験結果に対する理論的説明を試みた. 予期せぬ発見は,コロネン分子から成るナノファイバー(長さ200マイクロメートル,断面100ナノメートル程度の矩形)が,窒素温度から室温に昇温する過程で,10マイクロ秒程度の間に,波うちながらジャンプする,というものである.ミクロなスケールの実験結果としては,X線構造解析とラマンスペクトル測定から,構造相転移がおこっていることが明らかになったので,これが現象の引き金となっていることが考えられる.マクロに観測される現象は,熱や光刺激によって結晶がジャンプするthermosarient効果のひとつに分類されると考えられるが,時間スケールの圧倒的短さや,運動非一様性の点から従来の考え方では説明がつかない. そこで,通常は静的な状況で議論される座屈の理論を時間依存性を含めて議論したところ,本現象が,微小な変形の発生が時間とともに指数関数的に増大し,いずれ発散するという動的不安定性の具現として記述できることがわかった.具体的には,古典的な運動方程式から出発し,線形安定性解析を施す.昇温過程でおこる構造相転移によって系内部に応力が瞬間的に分布すると考え,この大きさを,後に実験で算定可能なパラメータとして立論することで,実験と定性的にも定量的にも矛盾しない結果を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究のサーベイから得られた,本申請に本質的と思われる知見,特にHehlらによって与えられた微分幾何による現代的な双非等方系の記述,Choによる電気的応答と磁気的応答を融合させた一般化感受率による物質系の記述,さらには金属/誘電体スラブなど開放系での電磁波伝播で顕著になる複素固有値の問題,特にleaky waveやsurface waveでの知見の融合を図る. その際,古典的な軌道角運動量をもった光などにも対応できるよう,入力を単一周波数平面波に限定せず,光の角運動量を持つビーム等である場合も視野に入れておく. 開放系での電磁波伝播の問題とマイクロ波領域での伝送回路理論の等価性を最大限活用し,随所で微分幾何,多様体などトポロジーの言語を用いた表現の可能性を探る.特に,開放系における電磁波応答では,輻射特性を特徴づける応答関数の特異点がリーマン面のどこに位置するかが本質的である.まず,この部分を非エルミート系の議論で行われているトポロジカルな視点で捉え直す.これは導波路を構成する物質が単純な場合であっても非自明な問題である.その後,物資系を双非等方物質に拡張し,同様の問題意識での定式化を試みる. 可能であれば,工学的な視点から,輻射場特性の制御性も考察したい.例として,指向性やコヒーレンス特性,さらには光の軌道角運動量などと,開放系を構成する構造との関係が見いだせれば,基本原理にとどまらず,実際の素子開発の素地を与えることも可能になると考えられる.最後に,研究計画最終年度としての総括を行う.
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Causes of Carryover |
研究申請時に参加を予定した学会,会議等が複数中止になったこと,および購入を想定していた物品等の納期が未定となる案件がおこったことによる. 今後は物品購入などをより計画的に実施する.
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Phase‐transition‐induced jumping, bending, and wriggling of single crystal nanofibers of coronene2021
Author(s)
Ken Takazawa, Jun‐ichi Inoue, Kazutaka Mitsuishi, Yukihiro Yoshida, Hideo Kishida, Paul Tinnemans, Hans Engelkamp, Peter C. M. Christianen
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Journal Title
scientific reports
Volume: 11
Pages: 3175/1, 3175/11
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research