2020 Fiscal Year Research-status Report
バックグラウンド低減とタイムスタンプ測定による微量核分裂生成物の崩壊特性の研究
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19K05327
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柴田 理尋 名古屋大学, アイソトープ総合センター, 教授 (30262885)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 不安定核 / 核分裂生成物 / 崩壊核分光 / 崩壊核データ |
Outline of Annual Research Achievements |
短半減期の核分裂生成物の崩壊核データを取得するために、京大原子炉附置オンライン同位体分離装置を用いて崩壊核分光実験を行った。153Prについては、高速データ収集系と全立体角型クローバー検出器用いて測定し、72本のγ線と28個の励起準位を含む3436keVまでの励起準位を同定した。また、191.7keVの励起準位の半減期を1.1(1)μ秒と決定した。一方、154Prは核分裂収率が小さいために、炉室内の高エネルギーγ線による高いバックグラウンドγ線に妨害されるため、クローバー検出器の貫通孔に設置可能なβ線検出用プラスチックシンチレーション検出器を作製し、β線検出器とクローバー検出器でβ-γ同時計数測定を行ってS/Nを向上させる測定を行った。β線検出器には、シンチレーション光検出のために浜松ホトニクス社製のMPPCを用い、MPPCで得られた信号は高速アンプで増幅し、データ収集系に入力できるように波形整形した。この測定によって、相対γ線放出率が1%以下のγ線まで確認することができた。以上の結果から、43本のγ線と18個の励起準位を含む2940keVまでの崩壊図式を作成した。いずれの核種についても報告されている文献に比べ、より詳細な崩壊図式を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高速データ収集系を用いて、153Prの崩壊によるγ-γ同時計数によって、娘核153Ndについて、72本のγ線と29個の励起準位を同定した。これには、新たに確認した26本のγ線と6個の励起準位が含まれる。また、既に報告されている191.7keVの核異性体の半減期は、タイムスタンプ法の時間測定によって1.1(1)μ秒と決定した。この値は、過去の結果を支持する結果となった。また、X-γ同時計数から、第一励起状態から基底状態へ遷移する53keVのγ遷移の多重極度はM1/E2遷移と決まった。この結果、過去の文献で53keVの準位のパリティが偶と奇の両郷が報告されていたが、偶パリティであると決定した。 一方、154Prについては、新たに開発したβ線検出器を用いてクローバー検出器とのβ-γ同時計数によって、過去の文献に対して20倍以上の統計精度を得ることができた。その結果、過去に12本提案されていた崩壊に伴うγ線に加えて新たに43本を同定した。また、18個の励起準位を同定した。今回決定した詳細な崩壊図式に基づいてコインシデンスサムの補正を行い、より精度の高いγ線放出率を決定できる見通しが付いた。 以上のように、収率の低い核分裂生成物の崩壊核データを精度良く測定して、解析の途中であるが、詳しい崩壊データの取得し、概ね予定通りに進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
目的核種について、詳細な崩壊核データを取得したので、それに基づいて、崩壊図式を作成し、β線の遷移強度をもとにlog-ft値を求める必要がある。 高速データ収集系は、クローバー検出器のγ-γ同時計数に有効である。β線検出用プラスチックシンチレーターは、半円状で厚さは6mmであるため、γ線に対してもある程度の感度がある。そのため、γ-γ同時計数によって、得られたスペクトルに余分なγ線のバックグラウンドが混じり込んでいる可能性がある。今後、プラスチックシンチレーターの厚さを薄くしてγ線に対する感度を落とし、できるだけβ-γ同時計数のみが測定できるようにする予定である。そうすることによって、核分裂収率が154Prよりも一桁小さい155Prや157Ndなどの核種の測定が可能となると期待している。これらの核種は、加速器によってウラン加速した実験で、in-flght分離によって粒子の存在が同定されているが、半減期や崩壊γ線などの崩壊核データは報告されていない。これらの核種は、KUR-ISOLで到達しうる中性子過剰核の極限に位置しているが、核分裂収率から考えると、測定可能と考えられる。β線測定器の性能を向上させて、是非測定したいと考えている。
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Causes of Carryover |
β線検出用のプラスチックシンチレーション検出器の作製に当たって、コロナ感染症の影響で製作が遅れたため、シンチレーターとMPPCモジュールのみ購入し自前で組み上げたたこと、オンライン実験での鉛遮蔽も現状のままで行ったことから、結果として予定していたよりも経費が掛からなかった。 当該検出器についてはオンライン実験で性能を確認したが、一部、遮光条件などがまだ不完全なため、次年度には遮光方法の改良に加えて、鉛遮蔽の補強に利用する予定である。
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