2020 Fiscal Year Research-status Report
有機半導体検出器の性能向上のための高移動度極性有機半導体の開発
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19K05336
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Research Institution | National Institute of Technology, Toyama College |
Principal Investigator |
山岸 正和 富山高等専門学校, 物質化学工学科, 講師 (20615827)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高田 英治 富山高等専門学校, 電気制御システム工学科, 教授 (00270885)
岡本 敏宏 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (80469931)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 含硫官能基 / 新規有機半導体 / 分子内ダイポール |
Outline of Annual Research Achievements |
有機半導体は材料の生体等価性や機械的柔軟性などの特長から,人体の曲部に巻きつけて使用する放射線検出器として利用が期待されている.本研究では,放射線の直接検出を指向した有機半導体の設計指針提案とその実証を目的とした.1年次に有機半導体による放射線計測のメカニズムについて,過去に報告があったルブレンおよびp-cyanophenol (pCP)単結晶による放射線検出信号がデバイスの電極金属での電流増加によるものであったことから,有機半導体と放射線との相互作用が当初の想定よりも弱いことが明らかになった.そこで,2年次の研究では,放射線との相互作用を向上させることを目的として,検討を進めていた有機半導体骨格に含硫置換基を導入した分子の合成とその評価を進めた.その結果,含硫置換基としてα-アルキルスルファニルチエニル基を導入することに成功した.溶解性や成膜性について評価したところ,同じ炭素数のα-アルキルチエニル基と比べて溶解性が向上したものの,成膜性に問題があることがわかった.単結晶による伝導性の評価から,アルキルスルファニルチエニル基を導入しても過去に報告のあったアルキルチエニル基を導入した場合と同程度移動度を示すことがわかった.アモルファス固体を用いた放射線の照射実験では,放射線の照射による電流増加は確認されなかった.また,pCPを用いてデバイス構造の検討を行ったところ,単結晶による検出は確認できなかったものの,多結晶膜での信号が確認できた.pCPは,着眼した1) キャリア移動度,2) 長いキャリア寿命,3) 励起子の発生効率の向上の項目のうち,分子内ダイポールについてのみ検討した有機半導体の中で最も大きな値を有することから,最も長キャリア寿命が達成されて放射線による信号が検出されたことが示唆される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年次の研究では,キャリア移動度と放射線との相互作用の向上を目的としてα-アルキルスルファニルチエニル基を導入した新規有機半導体の合成・評価に成功するとともに,長キャリア寿命に寄与する分子内ダイポールについて検討した有機半導体の中で最も大きな値を持つp-cyanophenol (pCP) で放射線検出できた.このことから,実験的には大きな進展があったと言える.これらの結果は,着眼した項目のうち最も新規開発が困難であり新規有機半導体では既存の骨格に依存している分子ダイポールの大きい分子であるpCPで放射線の検出が達成できていると言える.このことから,放射線計測の設計指針についての知見を得ているものの,開発した分子で放射線検出を達成しておらず,分子設計指針の実証については十分に検討できていないと評価した.一方で,上記の結果に加えて,新規の含硫置換基を導入した有機半導体の溶解性や成膜性,キャリア移動度についての情報が得られていることから,3年次の研究で開発すべき分子の方向性の修正に十分な成果が得られたと考える.さらに,2年次に得られた有機半導体の類縁体の合成と比較検討をすすめることで,新規の含硫置換基を導入した分子の有機半導体としての特性も明らかにする研究に派生させることができる予備検討が完了したと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
3年次の有機半導体の開発についても1) キャリア移動度,2) 長いキャリア寿命,3) 励起子の発生効率の向上が必要である前提は維持したまま,大きく次の2つの方向ですすめる.1つめは,2年次に合成した含硫置換基を導入した有機半導体についての継続的な検討である.この分子は,キャリア移動度を有する骨格に,放射線との相互作用の向上を目的として含硫置換基を導入している.キャリア寿命に関しては,屈曲型の半導体骨格にその要件を任せている状態である.アルキル長や置換位置を検討して移動度と成膜性の向上を図り,より詳細な放射線検出能評価に適したデバイス作製を可能とし,比較検討を続ける.2つめは,新しい方針として硫黄原子数と分子内ダイポールに着眼した,つまり,キャリア寿命の向上に特化した分子の開発である.2年次で明らかになった分子内ダイポールの重要性は長キャリア寿命の重要性を示唆している.一方で,放射線との相互作用向上を目的として導入している硫黄原子では励起子の再結合 (キャリア寿命の低下の要因) への寄与が懸念されるスピン-軌道相互作用があると考えられる.また,硫黄の電気陰性度は炭素と同程度である.以上を踏まえると,キャリア寿命と励起子の発生効率は現状の分子ではトレードオフの関係にあると考えざるを得ない.したがって,硫黄原子の代わりに大きな電気陰性度を有する酸素原子を用いることで,放射線と相互作用は減少する一方で,分子内ダイポールの向上によってキャリアの寿命の向上が期待される分子の検討をすすめる.また,既存かつ類似の屈曲型骨格やp-cyanophenolなど既存の分子での検討も行い,有機半導体検出器のメカニズムに関する知見も引き続き収集する.
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Causes of Carryover |
1年次途中からのコロナ禍の影響で学外での活動を自粛せざるをえなかったため,旅費の支出がなくなった.余剰分にて学内での実験を進めるべく物品を購入したが,端数分の余剰金が発生した.次年度では,物品費として使用し実験の促進をはかる.
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