2021 Fiscal Year Research-status Report
原子力発電所等高放射線環境下で動作可能な電子回路の開発
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19K05337
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
高倉 健一郎 熊本高等専門学校, 拠点化プロジェクト系先端研究コアグループ, 准教授 (70353349)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電子デバイス / 放射線損傷 / 廃炉問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第1原子力発電所の廃炉作業推進のために、放射線耐性を向上させた電子回路開発を目的とする。電子素子は放射線耐性が低いと考えられているが、研究代表者らの研究では放射線耐性の高い素子も多いことを明らかにしている。そこで、本研究では、種々電子素子の放射線耐性評価より、耐性の高い素子を選択、電子回路を作成、放射線耐性の低い素子を使わざるを得ない場合、その素子に補償回路を導入、開発した回路の放射線照射試験を実施し、廃炉現場で要求される放射線被ばく総量に回路が耐えられることを実証することを目指して研究を実施する。 これまで、電子素子は放射線耐性が低いとの前提で、ロボット開発が進められてきたため、電子回路そのものの放射線耐性を強化する試みは他になく、独創的な研究である。本課題の開発の成果は、ロボット開発の自由度を広げ、廃炉進捗に大きく貢献できる。 駆動系を制御するモータードライバーやセンサー、カメラ、コントローラなどとの信号送受信回路、信号処理の心臓となるマイコンのマウント回路などを対象とする。素子選定は、回路に必要とされる素子の仕様を踏まえ、申請者の経験から耐性の高い素子を選出し、放射線耐性を評価する。 研究過程で、ロボットを操作するためのマイコンでは、とくにメモリ部品の放射線に対する劣化が機器の寿命を決めていることが判明した。各社より製品化されているメモリを比較すると、寿命に大きな差があることが分かり、現在は、メモリ構造や書き込み方式など、具体的に放射線耐性が高くなる製品の選定を実施している。その他、カメラ部品、センサ部品など、想定する放射線量に耐え得る部品の選定を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
廃炉ロボット用の電子回路開発を進めている。特に制御用マイコンに利用するメモリデバイスの耐放射線性評価に着目した。メモリデバイスは、マイコンの起動及び取得データ取得、書出しに使用されるため、マイコンの動作の根幹を担うことになるため、放射線耐性の高いメモリを選定する必要がある。 ロボット開発用のマイコンとしてRaspberry Piを使用することを想定した。マイコンの放射線環境下動作試験を実施したところ、ガンマ線照射線量が約数100Gy程度で動作不能となることが分かった。動作不能となった原因を特定するため、マイコンの個々の部品の調査を進めると、メモリの故障がマイコン動作不良の原因であり、メモリを交換するとマイコンは動作することが判明した。 このことから、放射線耐性の高いメモリの選定を進めている。現在、フラッシュメモリによるデータ格納が主流であり、フラッシュメモリの構造や書き込み、読み出し方式の異なる製品が多数流通している。そこで、種々メーカーのメモリに対しガンマ線照射を実施した。照射線量ごとにメモリの動作の有無を調査したところ、メモリの記録容量が小さい方が放射線耐性が高くなり、また、書き込み方式もメモリセルごとに1つの情報を記録するSLC方式の方が、複数の情報を記録するMLC, TCL...方式よりも放射線耐性が高いことが判明した。これらは、メモリ構造の複雑化、集積化に伴い、放射線耐性が低下することを示す結果であり、廃炉ロボット開発のために利用するメモリには、高度化が実現された最新のメモリよりも、古典的なメモリ構造を有する製品を選ぶべきであることが示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
廃炉ロボットの炉内での活動時間は、ロボットの被ばく時間と直結する。そのため、活動時間を踏まえてロボットのトータルドーズ効果を勘案した設計が必要となる。現在、ロボットには1 kGy程度のガンマ線に耐え得る設計をすべく素子選定を行っているが、現在までの研究成果より、マイコンを故障なく設定放射線量まで動作保証するためには、メモリ素子の放射線耐性強化が必要なことが判明した。 しかし、メモリ素子自体の放射線耐性を向上させるには、メモリ構造や読み書き方式など、メモリ自体の設計指針を見直す必要があり、ロボットの早急な開発を目指す研究に即さない。そこで、メモリを鉛など放射線遮蔽効果のある物質で保護する方策をとることを想定している。この場合、メモリのみを遮蔽物で覆うことで遮蔽物の量を減らすことができるため、マイコンから配線を延長してメモリと接続する。また、メモリ自体の体積が小さいことも遮蔽物を減らすことができる。本年度は、上述の検討を踏まえて、メモリの再選定を行い、それらへのガンマ線照射及び耐放射線性試験を実施する。
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Causes of Carryover |
放射線照射実験を実施するために量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所での実験を計画していたが、当該研究所の耐震工事のため、実験計画が大幅に遅れた。また、コロナ禍も相まって県外へ移動して実験を実施することが困難な時期が続いたため計画変更を余儀なくされた。
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Research Products
(1 results)