2019 Fiscal Year Research-status Report
分光測定を再現するMaxwell方程式と融合した分子動力学マルチスケール法の開発
Project/Area Number |
19K05364
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山田 篤志 筑波大学, 計算科学研究センター, 主任研究員 (10390676)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / Maxwell方程式 / 振動分光測定 / 分極力場モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、相互作用する光と分子の両者の運動を記述し、分光測定における実験プロセスと光シグナルを時間領域で直接的に追跡し再現することを可能にする新たな計算化学技術の創出を目指している。この計算技術の開発により、分光測定の解析において、従来の光と分子系が分離した計算科学よりも詳細かつ豊富な知見を得ることができるようになる。初年度はまず、その計算手法の土台にあたる運動方程式:マルチスケールモデルおよびCharge Response Kernel(CRK)モデルに基づく分極力場を光との相互作用に利用することにより、分子科学で確立している分子動力学シミュレーション(MD)と光電磁波を記述するMaxwell方程式とを統合した連立方程式を導出した。この運動方程式を数値的に解くためのプログラムコードを作成し、そのシミュレーションに必要な計算アルゴリズム各種を実装および検証した。適用例として氷結晶に対する基礎的な3つの振動分光実験のシミュレーション:(1)可視光照射による氷表面での反射と透過、(2)赤外吸収分光測定、(3)誘導ラマン散乱測定、を示した。これらにおける、光照射、物質内での相互作用、分子振動モードの励起、光電磁波の伝搬・吸収・放出・変調、透過波シグナルの検出、といった一連の計測プロセスおよびシグナル(スペクトル)を再現することに成功し、光・電子分極・フォノンが絡み合った実時間ダイナミクスの同時かつ包括的な記述を実現した。これにより、新規計算手法:Maxwell + 分極力場MD法の土台部分が確立された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題の初年度1年間で、運動方程式の導出、プログラムコードの作成、適用例としての振動分光測定の計算、論文出版、まで進めることができ、新規計算技術の最低限必要となる土台部分を確立することができた。当初は運動方程式の導出とプログラムコード作成あたりが初年度に行う計画であったため、予期した以上の進捗である。最低限の計算アルゴリズムの実装に的を絞ったこと、計算技術上の問題が予想よりも早く解決できた点、適用例に既存の力場を利用できかつ簡素な実験測定モデルを設定したこと、予想以上に合理的な計算結果が得られたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、水素結合ネットワークを持つ強誘電体の分子性結晶に対する光応答を、本計算技術 Maxwell + 分極力場MD法により記述する展開を試みる。近赤外パルス光を照射することによるラマンモードの励起と、そのモードの振動に起因するテラヘルツ波発生、の光応答プロセスを本計算技術の適用により詳細に記述する。相互作用する光と分子の両者の運動に基づく現象であるため本計算技術が必須である。テラヘルツの振動数は分子間相互作用に由来するもっとも遅い振動モードに該当し、非常に緩やかなポテンシャル曲面上での振動である。テラヘルツ領域のダイナミクスを定量的に記述できる分子力場の開発とパラメータの決定が技術的な課題の一つとなる。
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Causes of Carryover |
翌年度の予算を、計算機関連の出費、成果発表のための旅費、研究資料の購入などに用いる。その中で、想定以上に今年度の研究が進捗したため翌年度の成果発表のための学会参加費と旅費が予定額よりも多く必要になる。生じた次年度使用額をその費用に充てる。
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