2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K05365
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高柳 敏幸 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90354894)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 陽電子親和力 / 相関分極ポテンシャル / 陽電子衝突 / 密度汎関数法 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の低エネルギー陽電子ビームの実験技術の向上により,有機化合物を含む70種類以上の分子が陽電子を束縛することが分かっている.そのため,陽電子束縛による系の安定化エネルギーである陽電子親和力を求めるための理論開発が望まれてきた。我々は,様々な分子の陽電子親和力の測定結果を説明するために,相関分極ポテンシャルモデル法を新たに開発してきた.この手法では陽電子が分子から受けるポテンシャルエネルギーは,陽電子が原子核と電子から受けるクーロン相互作用と,密度汎関数法に基づいて記述される相関分極ポテンシャルの和で近似する.これまでの研究で,この理論モデルが実験で測定された陽電子親和力をうまく再現することを見出してきた.しかしながら,実際の実験では,陽電子は振動励起した分子に束縛され,一時的な共鳴状態を形成した後,陽電子-電子の対消滅が起こることに注意する必要がある.すなわち,陽電子親和力の計算だけでなく,量子力学的な共鳴寿命を取り入れて消滅スペクトルを計算する必要がある.特に,共鳴寿命は消滅スペクトルの強度と大きな相関がある.そこで我々は前述の相関分極ポテンシャルモデル法を発展させ,時間に依存したフェルミ黄金律理論を使った陽電子共鳴幅の計算理論を開発し,計算コードを作成した.この新しい理論を二硫化炭素,ベンゼンおよび6種類のクロロエテンに適用して,実験スペクトルと計算スペクトルの詳細な比較を行った.その結果我々が新しく開発した共鳴理論が極めて有効であることを示すことができた.これらの結果を国際ジャーナル誌に発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論の構築およびプログラム開発は順調に進んだ.そのため、2報の誌上発表を達成している(International Journal of Quantum ChemistryおよびPhysical Review A).
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Strategy for Future Research Activity |
ごく最近の陽電子‐分子の衝突実験によると,分子振動の振動量子数が1だけ変化する遷移(基音)だけでなく,分子の種類によっては,量子数が2以上変化する遷移(倍音)が寄与することが新たに見出された.現在,そのような現象が起こる理由は全く不明である.そこで,我々が開発した相関分極ポテンシャルモデル法と共鳴理論を適用し,実験結果を説明することを計画している.
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Causes of Carryover |
必要な物品はすべて年度内に購入できた.学会発表用の旅費として使う予定だったものが,学会がキャンセルになったため,その分を次年度に回した.そのための差額が生じたものである.
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Research Products
(4 results)