2019 Fiscal Year Research-status Report
スピン対称化ハートリー-フォック法による化学結合のパラダイムシフト
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19K05371
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
井田 朋智 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (30345607)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ギ酸分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
1985年にロシアのLuzanovによってRHFともUHFとも異なる、スピン対称化Hartree-Fock方程式(SSHF)という新しい理論展開が提案された。しかし、その後全く進展が報告されず、何が問題であるか検討されていない。申請者は以前からSSHFに興味を持ち、特に分子の解離過程の記述に有用であると予想した。そこで水素分子の解離過程ついて計算を行ったところ、解離過程が補正されるだけでなく、驚くことに平衡核間距離においてFull-CIに近いエネルギーを示したのである。計算結果の解析から、平衡核間距離におけるエネルギー安定性は、反平行なスピン分極構造が寄与していることが分かった。 そこで本研究の目的はSSHFを用いて一般分子へ適用可能な計算手法の開発と、種々の分子の電子状態の解析、そしてさらなる高精度計算への理論展開を行うことである。この目的に沿って研究期間初年度にあたる本年度は、既存の類似理論の再検証とSSHFとの比較を行うことで、研究を進める指針を検討した。 再検証の結果、SSHFは基礎的な概念であるため種々の理論との類似点が多く、波動関数の改良といった側面、または化学結合の観点からも幾つかの知見が得られた。これらの知見をまとめることによって本年度は論文3報を発表した。この成果の中でも化学結合に関する論文において、これまで30年以上も問題とされた「ギ酸の熱分解反応」について、理論化学的な展開により新たな知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究初年度であることから既存の類似理論の再検証とSSHFとの比較を行うことで、研究を進める指針を検討した。その結果、化学結合に関する興味ある知見を得た。それはこれまで30年以上も問題とされた「ギ酸の熱分解反応」について、化学式をグラフと見なし、ルイス構造の図形変化と化学反応ネットワークを対応させることで、熱分解反応を理解できると判明した。この成果はJournal of Physical Chemistry A誌に掲載された。 このルイス構造が化学反応に大きく寄与する点は、Valence Bond(VB)法との類似性が重要である点を想起させた。SSHFとVBは非常に似た理論であるので、Molecular Orbital(MO)法とVB法を重点的に再検証することで、SSHFの展開が可能であることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況でも述べたようにSSHFとVBは非常に似た理論であるので、MO法とVB法を重点的に再検証することで、SSHFの展開が可能であると考えられる。1949年にCoulsonとFischerによって、水素分子のみの適用であるがMO法とVB法を混合させる手法が考案されている。これはCF波動関数と呼ばれているが、現在、このCF波動関数の再検討がSSHFの進展に寄与すると考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は当初予定した以上に研究成果が得られたので、予定を早めて2020年度に国際学会で発表するため、本年度の予算を節約し次年度へ繰り越した。
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Research Products
(5 results)