2020 Fiscal Year Research-status Report
高感度時間分解THz分光法の開発と光エネルギー変換材料への応用
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19K05373
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 薫 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 特命准教授 (30397822)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | テラヘルツ分光法 / 時間分解分光法 / 有機薄膜太陽電池 / 電荷キャリア |
Outline of Annual Research Achievements |
我々のこれまでの研究では、時間分解テラヘルツ(THz)分光法を用いて、アルキル鎖の長さが4のジケトピロロピロール連結テトラベンゾポルフィリン(C4-DPP-BP)とフラーレン誘導体(PCBM)とのバルクヘテロ接合型薄膜試料を対象に測定を行ってきた。C4-DPP-BPを用いた有機薄膜太陽電池では、光電変換効率が5.2%であることがわかっており、ポルフィリン系の太陽電池では非常に高い性能を持つ。これはC4-DPP-BPが基板に水平に配向する傾向にあり、長距離的な電荷輸送に有利であるためと考えられている。一方、アルキル鎖の長さが10のジケトピロロピロール連結テトラベンゾポルフィリン(C10-DPP-BP)では、基板に対して垂直に配列することが知られている。このため、光電変換効率はC4のものに比べ、非常に低く(0.2%)、分子配列やモルフォロジーが大きく影響することがわかっている。今年度の研究では、C10-DPP-BPをベースとしたバルクヘテロ接合型薄膜試料について測定を行った。時間分解THz分光法では、THz光の電場が基板に対して水平方向に変化するため、水平方向の電荷キャリアの移動に敏感である。このため、C4に比べて、C10の薄膜試料の方が電荷キャリアの移動度は大きくなると考えられる。しかし、測定結果はこの予想に反し、両者の試料の電荷キャリアの移動度や時間変化に大きな違いは観測されなかった。このことは数nmレベルの局所的な空間スケールでは、電荷キャリアの移動度が分子配列やモルフォロジーに依存しないことを示唆している。またC4の場合と同様に、マイクロ秒以降の時間領域で得られた電荷キャリアの移動度の値と比べても数桁大きいという結果を得た。このことから、100ピコ秒以内の電荷キャリアのダイナミクスはこれまでに知られている遅い時間スケールでの振る舞いと大きく異なることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルキル鎖の長さが異なる2つのジケトピロロピロール連結テトラベンゾポルフィリンバルクヘテロ接合型薄膜試料について、電荷キャリアの移動度を測定し、、局所的な空間スケールでは、移動度が分子配列やモルフォロジーに大きく依存しないことを明らかにしてきた。C4-DPP-BP/PCBM系の結果についてはすでに論文として報告しており、C10-DPP-BP/PCBM系の結果については論文として投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの一連の研究において、ジケトピロロピロール連結テトラベンゾポルフィリン系バルクヘテロ接合型薄膜試料について、局所的な電荷キャリアの移動度やそのダイナミクスについて明らかにした。今後は可視‐近赤外領域の過渡吸収測定により、励起子などのダイナミクスについても測定し、有機薄膜太陽電池などの光エネルギー変換材料の電荷キャリアの生成や消失の詳細なダイナミクスを明らかにする。また、固体結晶(GaP)を用いた新規な時間分解THz分光法の光学系の改良も進め、計測感度の向上や計測時間の短縮化を目指し、より多くの測定が可能になるようにする。
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Causes of Carryover |
C10-DPP-BP/PCBM系の実験では、C4-DPP-BP/PCBM系と同一の測定条件で行う必要があったため、現有のエアプラズマを用いた時間分解THz分光法の測定系を用いた。そのため、少量の光学部品を購入するだけで、研究を進めることができた。さらに、レーザーは定期的にメインテナンスが必要であるが、昨年度に引き続き、出力の大幅な低下などのトラブルがなく、レーザー調整費が発生しなかった。さらにコロナ禍で国内、海外出張ができなかったことなどが次年度使用額の生じた理由に挙げられる。2021年度は過渡吸収測定系の整備や固体結晶(GaP)を用いた新規な時間分解THz分光法の光学系の改良を予定している。そのために請求した助成金を使用することを予定している。
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