2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of frontier molecular design and reaction control method based on integrated free energy profile analysis
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19K05375
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
麻田 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10285314)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 耐性菌による抗生剤分解反応 / カルバペネマーゼ / メロペネム / ビシン / 分子動力学シミュレーション / 自由エネルギープロファイル / 成分分割 / 分子設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペニシリンをはじめとするベータラクタム系抗生物質に耐性を示すタンパク質ベータラクタマーゼが存在する。これに対し、さらに薬効を高めた抗生物質としてカルバペネム系抗生物質が発見されたものの、近年それにさえ耐性を示すタンパク質カルバペネマーゼが出現した。本研究は、これら耐性菌の生み出す分解酵素の分解メカニズムを分子論的に解析し、短期間で新規かつ有効な抗生物質を開発するための一連の革新的分子設計と反応制御法を確立することが目的である。はじめに、カルバペネマーゼが抗生物質を分解する反応をモデル化して分子シミュレーションを行った。さらに、自由エネルギー面上での反応経路を最適化している。反応経路の最適化により、後続する分解過程における自由エネルギープロファイルの理解をすすめ、同時に分解エネルギー障壁とタンパク質の動的過程との相関を機械学習を用いて検討することが容易になる。 汎用な知見を得るためには複数の抗生物質を並行して解析することが望ましい。そこで、本年度は抗生物質であるビシンとメロペネム分子の複合体中間体から始まる律速過程の脱アシル化反応に着目し、反応経路の最適化を試みた。ビシンとの複合体に関するX線構造はすでに報告されているものの、メロペネムとの複合体については構造そのものが得られていない。そこで、ビシンとカルバペネマーゼとの複合体の活性中心の構造を参照構造として、メロペネムとカルバペネマーゼとの酵素基質中間体構造をモデル化した。また、Image dependent pair potential補間法により分子シミュレーションに適した反応経路にそった15個の中間構造を作成した。それらの初期構造から独自に開発した量子化学(QM)計算の信頼性を保ちつつ高速に計算できる独自に開発したCDRK手法を用いて、反応経路最適化を実行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自由エネルギー面上における反応経路最適化を効率的に達成するため、はじめに Chain of states 法による反応経路最適化手法を単純エネルギー面上で並列計算機用に最適化した。さらに、二次微分である計算時間を要するヘシアン計算を必要せず、一次微分である勾配のみから遷移状態を効率的に最適化する方法 climbing end 法を確立した。この手法は量子化学計算プログラムGamessへ組み込んだ。このバージョンのGamessは近日公開予定である。 次に、独自に開発した CDRK 法を用いて分子動力学シミュレーションを実行することで、自由エネルギー勾配を効率的かつ高信頼性のもとで計算するためのプログラムの作成に成功したので、上述の遷移状態の効率的手法 climbing end 法は直ちに、今後の自由エネルギー面上の反応経路最適化においても有効な手法となりうる。 Chain of state 法は、最適化された反応物と生成物の間を複数の中間構造で結ぶことで反応経路を近似するため、いかにして適切な初期反応経路を設定するかが最適化された反応経路の信頼性に影響することが知られている。そこで理想的な初期反応経路を設定することが可能である新たな Image dependent pair potential 補間法を本研究の一連の流れに取り込み、効率化に寄与することを確認した。本研究の流れは汎用かつ有効な解析手段である。 得られた初期経路は複数の中間構造を含んでいるものの、独立に自由エネルギー勾配を計算することが可能であるため、高い並列化計算効率が得られている。単純エネルギー面上の反応経路ではなく、自由エネルギー面上の反応経路を現在実行中である。以上のことから、初年度の本研究課題の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
全ての中間構造を最小自由エネルギー反応経路上にのるように構造最適化を完了する。通常、反応中心付近を QM 計算で扱い周辺分子は力場 (MM) 計算を用いる QM/MM 法では、自由エネルギー勾配を得るまでに膨大な計算時間を要する。独自に開発した CDRK 法は、誘起電荷と誘起原子双極子モーメントを外場の比例係数として近似することで、信頼性を落とさずに 1000 倍程度高速に計算が実行できるため、早期に反応経路の最適化を収束させて自由エネルギープロファイルを得る計画である。 CDRK 法の重要な特徴の一つとして、自由エネルギープロファイルを原子対の成分の寄与に分割することが可能であることが挙げられる。そこで分子動力学シミュレーションを実行してアミノ酸残基の熱揺らぎ(アミノ酸残基の重心と活性中心の各原子との距離)、および自由エネルギーへの寄与をデータセットとして収集する。集められたデータセットは、機械学習の一つであるランダムフォレスト法で処理する。ランダムフォレスト法において、原子間距離を説明変数、自由エネルギーの寄与を被説明変数とすることで、抗生物質分解酵素であるカルバペネマーゼを構成するどのアミノ酸残基の熱揺らぎが分解反応の障壁にどの程度寄与するかを明確に解析する予定である。 また、カルバペネマーゼには、反応中心から離れたアミノ酸残基が抗生物質の分解反応に寄与するアロステリック効果が含まれる可能性が指摘されている。機械学習の結果として得られる自由エネルギー障壁に重要に寄与するアミノ酸残基を特定し、予測されているアロステリック部位と対応関係があるかを明らかにしていく予定である。抗生物質の分子分解反応の反応障壁は活性中心に及ぼす外場の効果が重要であることから、外場を打ち消すことが可能となるような分子設計を置換基導入で実現する手法を確立する予定である。
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Causes of Carryover |
年度内に並列計算機を整備する予定であったが、新型コロナウィルスの影響で中国からの入荷が滞ったために予定していた性能の部品の調達に支障をきたしたため、次年度の購入計画にまわすことにした。そのことで次年度使用額がプラスになった。 研究の進捗状況に与える影響は軽微である。なお、次年度使用額を含めて早期に計算環境を整えることで、早期の研究目的の達成を目指す予定である。国際学会の状況はパンデミックの影響から、中止や延期になっているので状況を見極めながら、旅費と物品調達を行う計画である。
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