2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of frontier molecular design and reaction control method based on integrated free energy profile analysis
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19K05375
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
麻田 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10285314)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子分極 / 原子分極 / 自由エネルギー / 反応経路 / カルバペネマーゼ / メロペネム / 機械学習 / ランダムフォレスト法 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の三点に要約できる。 1.遷移状態の構造最適化の新しい手法を開発した。すでに発表済みの独自手法であるCDRK法を用いると、時間のかかる二次微分を計算することなく、エネルギー勾配だけを用いて量子化学計算と同等の信頼性で反応経路を最適化することが可能である。しかしながら、反応経路を複数の中間構造として求めるため、構造の間隔が離散的で遷移状態をピンポイントに得ることは困難であった。新たな方法では、用いる中間構造がすべて反応経路にそってエネルギー面を登っていくことを可能にした。これによって、本来は離散的な構造の間隔を任意に小さくすることが可能となったため、遷移状態の構造の信頼性を極めて高くすることに成功した。 2.CDRK法を抗生物質分解酵素であるカルバペネマーゼに適用し、抗生物質のひとつであるメロペネム分子を分解する際の律速過程として報告されている脱アシル化反応の自由エネルギー面上の反応経路最適化に成功した。自由エネルギー面上の遷移状態最適化は、既存の方法を用いると時間がかかりすぎるために適用不可能であった。また得られた遷移状態のエネルギーは約15kcal/molとなりカルバペネマーゼが抗生物質を分解可能であると結論することができた。独自のCDRK法が高い信頼性を保ったまま、自由エネルギー勾配を従来の手法と比べて500倍以上高速化できるようになり、反応経路の最適化を可能にした結果である。 3.機械学習を用いるためのプログラムを完成した。自由エネルギー面上の反応経路を得ることに加えて、CDRK法は反応自由エネルギープロファイルを原子間の寄与の和として展開することが可能である。つまり、分子シミュレーションの間の構造揺らぎを示す残基間距離の平均値とその揺らぎを説明変数に加え、自由エネルギーへの影響を目的変数と置くことでランダムフォレスト法を用いて解析するプログラムを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自由エネルギー面上の反応経路に沿った遷移状態を求めるために時間がかかる二次微分であるヘシアンを用いることなく求めることは従来困難であった。一方、自由エネルギー面上のヘシアンは仮に時間をかけたところでエネルギー面上のものとは異なり信頼性が低くなる。なぜなら、分子シミュレーションでは周辺分子の熱構造揺らぎの影響が存在し、限られたシミュレーション時間内では一定の値に収束することは単純な系を除けば困難で熱揺らぎの影響が強く表れるからである。つまりヘシアンは勾配と比較すると、より揺らぎの効果が大きく表れる。本年度の研究で、勾配だけを用いて高い信頼性で遷移状態を求める方法を提案し、プログラムに組み込めたことは、より反応経路の信頼性を高めるために重要な成果といえる。 さらに、酵素反応の反応経路を得ることができたことも本研究が順調に進捗していると評価した理由の一つである。周辺分子の構造揺らぎの効果を含む自由エネルギー面上の反応経路が得られたことで、CDRK法の利点が十分に発揮できることを確認しただけでなく、酵素反応で重要となる周辺の各アミノ酸残基からの影響を寄与分割して解明する準備が整ったことがポイントである。 分子動力学シミュレーションの結果と機械学習とのハイブリッド化についても、必要となる python のプログラムを作成してテスト計算用のデータセットを作成して動作確認まで行えたことは、次年度の予定通り自由エネルギー寄与分割も順調に進めば、統合自由エネルギープロファイル解析が実現することを示している。これらの経緯から本課題の達成に向けて順調に研究が進捗していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
独自の手法であるCDRK法を活用して、分子シミュレーションを用いた自由エネルギー面上の反応経路を得た。また、遷移状態の構造を高い信頼性で得るための方法も開発したので、自由エネルギー面上の遷移状態の信頼性を高める。同時に、自由エネルギー障壁について自由エネルギー成分分割 (CDRK法の特徴)を実行することで、酵素を構成するアミノ酸残基のどれがどの程度反応に影響するかを数値化する。アミノ酸からの影響は隣接するアミノ酸残基をのぞけば、主に遠距離力である静電相互作用が支配的である。これらの活性中心への影響を打ち消す、または増幅することで、遷移状態の障壁の高さを制御する指針を得ることができる。これは、新規な抗生物質の分子設計につながるため、本研究において重要な目的であることから、期間内の実現を目指す。 また、分子シミュレーションを実行した際のアミノ酸残基の熱揺らぎ(活性中心との距離の変化)と自由エネルギーへの寄与をそれぞれ説明変数と目的変数としてランダムフォレスト法で機械学習し、どのアミノ酸残基の熱揺らぎが分解反応に寄与するかも解析する。これらは、反応経路が得られているので比較的容易に実行可能である。分子シミュレーションと機械学習を組み合わせ、酵素反応の反応メカニズムを解明する試みは世界的にみても初の試みであるので、成功すれば画期的な酵素の潜在能力の解明と薬剤開発指針につながるので、創薬分野における新しい学理の開拓にもつながると期待している。
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Causes of Carryover |
年度内に機械学習に適したGPU(高性能グラフィックカード)を入手して、機械学習の効率化についてプログラムのテストを行う予定であったが、コロナウィルスCovid-19の影響で半導体の製造に影響が及んだため、入手が困難になった。そこで、当該年度の購入を断念し次年度に持ち越すことになった。 そこで、次年度早期に高性能GPUボードを入手して早期に高速な機械学習環境を整えることで、研究課題の完遂を目指す予定である。国内・海外の学会出張はコロナウィルスの影響が出て難しくなっているため、状況を見極めながら、旅費と物品調達を進める予定である。
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