2019 Fiscal Year Research-status Report
Chemical Reaction Dynamics in Friction-induced Self-organization and Self-healing of Tribofilms
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19K05380
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 優介 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70618777)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トライボロジー / トライボケミストリー / 第一原理分子動力学法 / 反応分子動力学法 / 密度汎関数強束縛分子動力学法 / 水潤滑 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の省エネルギー化の要請は摩擦にまで波及し、摩擦界面での化学反応が重要性を増している。本研究で対象とする、ケイ素系セラミックスなどは摩擦界面で誘起される化学反応により、nm厚さの潤滑フィルムが摩擦界面に自己形成し、超低摩擦を発現することが知られている。このフィルムは摩耗と自己修復を繰り返し、nm厚さを維持することが見出されているが、詳細なメカニズムは未解明である。そこで本研究では自己修復メカニズムを明らかにし、超低摩擦技術に向けた摩擦界面設計の学理を構築することを目的とする。これにより、潤滑油を使えない機械の低摩擦化に貢献することを目指す。 具体的には水中で超低摩擦を発現する炭化ケイ素(SiC)と窒化ケイ素(Si3N4)に着目する。電子状態を考慮した高精度な第一原理分子動力学法や1億原子系の計算が可能な反応分子動力学法を駆使し、電子状態に基づき摩擦界面での潤滑膜の自己修復過程を明らかにする。 本年度はSiCとSi3N4の摩擦界面で誘起される化学反応の解明に取り組んだ。SiCとSi3N4は水中での摩擦によってSiO2で構成される潤滑フィルムが自己形成され、超低摩擦を発現するとされているが、Si3N4の方が早く潤滑膜が形成されることが報告されている。これは摩擦界面で誘起される化学反応の違いを反映した現象と考えられているが詳細なメカニズムは未解明である。第一原理分子動力学法を用いた摩擦シミュレーションの結果、Si3N4では潤滑膜形成に関わる化学反応の障壁が低いことと、化学反応における中間体構造が反応を起こりやすくすることが、潤滑膜形成を促進することが明らかになった。また、反応分子動力学法を用いたSiO2の摩擦シミュレーションから、SiO2潤滑膜はSiO2粒子が水に溶けたコロイダルシリカと摩耗したSiO2表面に水が染み込んだ水和層で形成されていることを明らかにし、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画通り、水中で超低摩擦を発現する、2種類のケイ素系セラミックス、炭化ケイ素(SiC)と窒化ケイ素(Si3N4)の摩擦界面で誘起される化学反応ダイナミクスを、電子状態を考慮した第一原理分子動力学法を用いて明らかにした。 SiCとSi3N4の摩擦では、SiO2で構成される潤滑フィルムが超低摩擦をもたらすと考えられているが、Si3N4の方が潤滑膜の形成が早いことが報告されている。これは、摩擦界面で誘起される化学反応の違いを反映した現象と考えられているが、詳細は未解明である。そこで本年度はSiCとSi3N4の化学反応の違いを電子状態の違いから解明するために、第一原理分子動力学法に基づく摩擦シミュレーションを行なった。その結果、Si3N4、SiCいずれも表面の加水分解反応(Si-X + H2O → Si-OH + XH (X = N or C))が誘起され、Si-O結合の数が増加し、表面にSiO2酸化膜が形成されることがわかった。また、SiO2酸化膜の形成過程において、Si3N4の化学反応はSiCよりも早く起こることがわかった。これはSi3N4の方が早く潤滑膜が形成するという従来の実験結果と対応している。反応障壁の解析から、Si3N4の加水分解反応の反応障壁はSiCの反応障壁よりも低いことがわかった。反応ダイナミクスの解析からは、Si3N4の加水分解反応の際に5配位Si構造が反応中間体として形成されることで反応の確率を上げている一方、SiCでは反応中間体が生成されないことがわかった。電子状態解析から電気陰性度の大きいN原子がSi3N4の化学反応において、5配位Si構造反応中間体を安定化していることがわかった。以上のことから、低い反応障壁と反応中間体の存在がSi3N4の潤滑膜形成に関わる化学反応を起こりやすくし、潤滑膜を形成しやすくしていることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は第一原理分子動力学法を用いた高精度な摩擦シミュレーションから、二種類のケイ素系セラミックス、窒化ケイ素(Si3N4)と炭化ケイ素(SiC)の摩擦界面で誘起される化学反応ダイナミクスを明らかにした。令和2年度はこれまでに得られた知見を基に潤滑フィルムの自己形成・修復過程を明らかにする。 令和2年度も引き続き水中で超低摩擦を発現するSi3N4、SiCに着目して解析を進める。まず、大規模反応を扱うことができる反応分子動力学法を用いて~1万原子系の摩擦シミュレーションを行い、第一原理分子動力学法では計算規模が小さく解析できなかった、Si3N4とSiCの潤滑フィルムの構造と自己形成過程の違いを明らかにする。続いて、潤滑フィルムの摩耗と自己修復過程の解析を行う。系のサイズをさらに大規模化し、潤滑フィルムが摩擦界面から排出されるための十分な空間を設けることで、潤滑フィルムの摩耗の解析を行うとともに、摩耗後の自己修復過程を解析する。特にフィルムと摺動材料の界面付近でどのような化学反応と原子の拡散が起こるのかを明らかにする。また、電子状態を考慮しつつ大規模な解析が可能な密度汎関数強束縛分子動力学法を活用し、電子状態変化から潤滑膜の自己形成と自己修復に関わる化学反応ダイナミクスを明らかにする。共同研究を行う実験グループの協力を得て、シミュレーションの検証実験を行い、実験結果とシミュレーション結果をフィードバックし合いながら潤滑フィルムの自己修復に立脚した低摩擦・低摩耗な摺動材料の設計指針を構築する。これにより、潤滑油を使えない機械の低摩擦化に貢献することを目指す。
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