2019 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the nature of ionic liquid through intermolecular vibrations by time-domain vibrational spectroscopy
Project/Area Number |
19K05382
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
城田 秀明 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00292780)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | イオン液体 / 分子間振動 / 低振動数スペクトル / フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / テラヘルツ時間領域分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度である2019年度は,非芳香族系カチオン型イオン液体について,当研究室で自作したフェムト秒ラマン誘起カー効果分光装置を用いて,当初予定していた40種のサンプルの低振動数スペクトルの測定を達成できた。また,これらのイオン液体の密度,粘度,電気伝導度,表面張力の測定も終了することができた。これらのデータ解析も終了し,現在,論文執筆中である。論文の発表がなされれば,本研究課題の核心についてほぼ終了したと言って良いだろう。 また,硫黄を含む新規ホスホニウム型イオン液体の開発,とその物性評価について,2018年度より行ってきたテーマについて,論文として発表することができた。このターゲットについては,神戸大学富永教授のグループとのテラヘルツ時間領域分光による共同研究としても開始することができた。今後,更に温度依存性などの実験を行う予定である。 その他,2019年度の論文発表として,高分子溶液(ポリスチレンの四塩化炭素溶液)の低振動数スペクトルにおける単分子との比較,濃度依存性,分子量依存性について調べた研究成果を論文発表した。この系は,今後イオン液体-高分子系への発展を見据えて研究を行ったものである。また,イオン液体の低振動数スペクトルの温度依存性について,書籍の1章に総説として執筆し,現在,投稿中である。 国際会議での発表については,国際会議での招待講演3件,国際会議での口頭発表1件を行った。加えて,当研究室の大学院修士課程2年生の学生(令和2年度より博士課程に進学)が行った国際会議(チェコ共和国,クトナホラ市)でのポスター発表はポスター賞に選ばれた。 また,今年度には,これまでのフェムト秒ラマン誘起カー効果分光による液体・溶液の分子間振動に関する研究が評価され,2019年10月に溶液化学研究会より,2019年度溶液化学研究会学術賞が報告者に授与された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」で少し述べたように,非芳香族系カチオン型イオン液体について,当研究室で自作したフェムト秒ラマン誘起カー効果分光装置を用いて,当初予定していた40種のサンプルの低振動数スペクトルの測定を完了しただけでなく,液体物性(密度,粘度,電気伝導度,表面張力)の測定も終了し,2020年3月時点で論文を執筆できる段階にあるほど,かなり想定外に進展した。本研究課題を提案した時には,データの取得におおよそ2年かかると見込んでいた。かなり集中して研究を進めたこともあると思うが,2019年度は実験装置のトラブルなどがなかったことが大きいかもしれない。本課題の目的をほぼ達成できたと思われる。 また,当初予定していなかった高分子溶液(ポリスチレンの四塩化炭素溶液)についての研究も行うことができた。この研究で高分子と単分子の違い,濃度依存性,分子量依存性を明らかにできたことは,現在進めているイオン液体-高分子系の基盤知見が得られたものと考えられる。この研究は千葉大学理学部化学科の森山准教授との共同研究で,分子量依存性の鍵となる4量体を合成して頂いた。 硫黄を含む新規のホスホニウムカチオン型イオン液体の開発と物性評価については2018年度から行っていたが,2019年度に論文として発表することができた。このサンプルについては,テラヘルツ時間領域分光による共同研究(神戸大学富永教授)に発展している。2019年度に報告者と研究室の大学院生が神戸大学富永研究室を訪問し,室温における硫黄と酸素と炭化水素の置換基を比較したデータを得ることができた。 一方で,分子液体について,フェムト秒ラマン誘起カー効果分光とテラヘルツ時間領域分光で得られるスペクトルの比較も行う予定であったが,ターゲットとしていた分子液体の揮発性が激しく測定が現段階では難しいことも分かってきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの進捗状況」で述べたように,研究は予想以上の速さで進み,成果が挙がっている。2019年度には,本課題の主目的を達成するために,非芳香族系イオン液体の低振動数スペクトルに関するデータ集的な論文を執筆する。非芳香族系イオン液体の低振動数スペクトルのデータ解析は終わっており,今後,量子化学計算による分子内振動モードの解析と実験で得られたスペクトル内に含まれる分子内振動バンドの特定などを行い,これらの結果を踏まえた上で論文を執筆,発表する。 また上記「現在までの進捗状況」で述べた硫黄を含む新規のホスホニウムカチオン型イオン液体の低振動数スペクトルをフェムト秒ラマン誘起カー効果分光とテラヘルツ時間領域分光で測定し比較する。この研究は,神戸大学富永教授のグループとの共同研究であり,2020年度には報告者もしくは研究室の大学院生が神戸大学富永研究室を訪問し,実験を行う予定である。サンプルは既に当研究室で合成されたものがあるので,問題なく研究を進めることができると考えている。 一方で,分子液体のフェムト秒ラマン誘起カー効果分光とテラヘルツ時間領域分光で得られる低振動数スペクトルの比較については,問題解決が少し難しいかもしれない。テラヘルツ時間領域分光のセルは組み立てセルであるために完全な密閉系とすることが不可能で,揮発性サンプルにおいては大きな問題となる。今後,ターゲットサンプルに不揮発性の高いものを選択するなど,見直しが迫られると思われる。しかしながら,明らかにしたい物理現象が,分子の形状に関係するので,実験条件が満たされるサンプルを見出すのは難しいかもしれない。とはいえ,2019年度に本研究課題の核心部分である非芳香族系イオン液体の低振動数スペクトルのデータ集を作成することはほぼめどが立ったのは,非常に良かった。今後更なる研究展開のための予備実験ができそうである。
|
Research Products
(15 results)