2020 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the nature of ionic liquid through intermolecular vibrations by time-domain vibrational spectroscopy
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19K05382
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
城田 秀明 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00292780)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イオン液体 / 分子間振動 / 低振動数スペクトル / フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / テラヘルツ時間領域分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の二年目であるR2年度は,R元年度に実験が終了していた40種の非芳香族イオン液体の低振動数スペクトルおよび液体物性の測定結果について,データ集的な論文にまとめ,発表することができた(Bull. Chem. Soc. Jpn. 2020, 93, 1520)。本研究課題の核心はこれで達成できたと思う。尚,この論文は優秀論文に選ばれた。 この非芳香族イオン液体の研究に加え,当研究室で開発した硫黄を含む新規ホスホニウム型イオン液体および硫黄の代わりにメチレンと酸素を含むイオン液体について,フェムト秒ラマン誘起カー効果分光(fs-RIKES)で低振動数スペクトルの測定を行った。また,神戸大学富永教授のグループにおいてテラヘルツ時間領域分光(THz-TDS)による測定も行った。スペクトルのピークは両者でかなり大きく異なる(約50 cm-1)ことが明らかになった。 また,イオン液体と分子液体(アセトニトリル,メタノール,ジメチルスルホキシド)の混合系についての研究も行った。Fs-RIKESで測定したスペクトルの解釈について,佐賀大学高椋教授のグループが行った分子動力学シミュレーションの結果と比較を行い,分子液体の性質との関係について共同して考察した(J. Phys. Chem. B 2020, 124, 7857)。この論文はsupplementary cover artに選ばれた。 その他にも,イオン液体の低振動数スペクトルの温度依存性について,書籍の1章に総説として発表することができた(Theoretical and Computational Approaches to Predicting Ionic Liquid Properties, Elsevier, 2020, Chapter 5)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」で述べたように,非芳香族系カチオン型イオン液体の低振動数スペクトルおよび液体物性の測定結果について,データ集的な論文にまとめ,発表できた。この研究で得たデータから,低振動数スペクトルの一次モーメントとバルク因子の関係について,芳香族分子と芳香族分子で違いのなかった分子液体と異なり,イオン液体では芳香族系イオン液体と非芳香族系イオン液体で相関が異なることが新たに分かった。これらの研究成果から,本研究課題の目的をほぼ達成できたと考えている。 神戸大学富永教授のグループとの共同研究で進めている硫黄を含む新規のホスホニウムカチオン型イオン液体のfs-RIKESとTHz-TDSによるスペクトルの比較については,今年度,温度依存性の実験を行い,カチオンの側鎖基の硫黄,酸素,メチレンの比較を行った。実験は終了し,現在解析を進めている。fs-RIKESとTHz-TDSによるスペクトルの形状が全く異なり,単純に解釈することが難しいことが分かってきた。分子動力学シミュレーションのような理論計算による考察が必要になるかもしれない。液体の低振動数スペクトルにおいて,fs-RIKESとTHz-TDSによるスペクトルを計算できる理論科学者は非常に限られているが,現在,分子科学研究所の石田博士に相談中である。また,ここでターゲットにしているイオン液体については,液体物性(密度,粘度,表面張力,電気伝導度)についての温度依存性についても求めることができた。 また,当初の予定になかったイオン液体と分子液体の混合系についても研究を進めることができたのは,非常に良かったと思う。R2年度は,分子液体として,イオン液体との相互作用が比較的弱いアセトニトリル,メタノール,ジメチルスルホキシドについて検討を行い,論文発表することができた。ポリエチレングリコールについても検討を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
R元年度,R2年度と研究を予想以上の速さで進めることができ,その成果は非常に挙がっている。当初の目的であった非芳香族系イオン液体のスペクトル集,低振動スペクトルの全般的な理解およびバルク物性とスペクトルとの関係については既にR2年度に達成することができた。コロナ禍ではあったが,R元年度に続きR2年度も実験装置の大きな故障などがなかったことがプラスに働いたと思う。 そこでR3年度は,fs-RIKESとTHz-TDSのスペクトルの比較について,検討を進めたい。上記「現在までの進捗状況」で述べたように,神戸大学富永教授のグループの協力を得ることができ,3種類のホスホニウム系イオン液体の温度依存スペクトルの測定はR2年度に終えることができた。R3年度は実験データの再現性の確認とデータ解析を行い,両分光手法によるスペクトルの違いについて検討したい。シンプルなデータ解析でスペクトルの理解が進まない場合には,分子科学研究所の石田博士に相談し,分子動力学シミュレーションを依頼することも視野に入れている。 R2年度には,当初予定していなかったイオン液体と分子液体の混合系についても研究を進めることができたが,この研究で課題も見つかった。例えば,R2年度に行った研究で選択した分子液体はイオン液体との相互作用が比較的弱いため,分子液体の成分が少ない領域では,分子間振動が影響するスペクトルにあまり大きな影響を与えなかった。R3年度はイオン液体と相互作用が強いと考えられるホルムアミド系の分子液体との混合系を検討している。特に,ホルムアミド,N-メチルホルムアミド,N,N-ジメチルホルムアミドを比較することで,イオン液体との相互作用が強い系での水素結合の影響・寄与について明らかにできることが期待できる。また,ポリエチレングリコールなど分子量の影響も検討したい。
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Causes of Carryover |
R2度は、コロナ禍のために成果発表および情報収集のために参加予定にしていた学会がキャンセルになり、当初見込んでいた旅費を使うことができなった。そのために当研究費に余剰が出た。 元々申請段階での金額よりもかなり減額されて採択されていたため、本来予定していた研究において必要な試薬等に充てることを計画している。また、学会活動も可能な範囲で活発に行う予定である。
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Research Products
(7 results)