2020 Fiscal Year Research-status Report
超分子自己組織化系の構造予測のための計算手法開発と分子設計への応用
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19K05385
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 武志 京都大学, 理学研究科, 助教 (30397583)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自己組織化 / 分子動力学 / 超分子 / シミュレーション / 構造予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子集合系と超分子構造のより高効率な統計サンプリング法の研究を行った。タンパク質などの生体分子では、配座の統計サンプリングの手法が幅広く研究されている。しかしこれらの手法はタンパク質特有の性質を利用している場合が多く(バックボーン構造を集団自由度として用いるなど)、 モノマーが離散・集合出来る系ではサンプリンク効率を上げるための工夫を別途行う必要がある。また、モノマー同士の原子レベルでの相互作用パターンが最終構造を決めるため、水素結合などの効果を十分考慮する必要がある。この目的のため、これまでの研究では全原子モデルに基づくREST法(レプリカ交換法の一種)を用いていたが、系全体をそのまま取り扱う場合、系に含まれる自己組織化分子の数やサイズとともにレプリカ数が増大するため、調べられる系が限定される問題があった。これに対処するため、分割統治に基づいてモノマーが超分子を形成していく過程を段階的にシミュ レートする方法を考え、典型的な超分子ポリマーに適用し、REST法とほぼ同じ超分子構造がより低い計算コストで得られることを示した(論文投稿準備中)。
自己組織化系に対するレプリカ交換法の応用では、レプリカの最大温度をモノマーが一時的に解離できる温度まで上げることが重要になるが、高温領域では系の凝集・分散に関わる相転移的な挙動が起こるため、計算効率が大きく下がるという欠点があった。これに対処するため、温度を制御パラメタとして用いず、構造形成に関わる重要な自由度(集団座標)をデータから機械的に抽出し、それを通じてサンプリングを加速する方法の研究を行った。さらに、集団座標を用いずに系のエネルギー関数を一時的によりなめらかにすることで原子系のサンプリングを加速するための研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度までに予定していた研究内容のうち、分割統治に基づく方法の研究は予定どおり進めることができた。またレプリカ交換法を分子カプセルの自己組織化系に用いる応用研究も進めることが出来た(投稿準備中)。一方で、温度を制御パラメタに用いる際の計算効率の限界や、レプリカ法に基づく方法の欠点もそのような応用計算から明らかになってきた。そのような問題に対処するため、構造形成に関わる集団座標をデータに基づいて自動決定するための方法やエネルギー関数の平滑化の方法の研究を開始し、現在はプログラム開発と代表的な系を用いたテスト計算を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
分割統治の方法を用いた研究および分子カプセルの自己組織化過程への応用について得られた結果を論文にまとめる。これらの方法を拡張し、実験的に興味を持たれているより難しい系(非常に長い側鎖を持つ水溶性ポリマーや複数の種類のモノマーが関与する系)の構造予測に適用してみる。加えて、レプリカ交換と相補的な方法として、分子動力学計算のデータ生成と集団座標の自動決定に基づくサンプリングの加速の方法やエネルギーの一時的な平滑化の方法をより実践的な系に適用し、構造予測の能力について調べる。また、従来のレプリカ法と比較することで得られた構造や計算効率の比較を行う。
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Causes of Carryover |
令和2年度に新規のワークステーション計算機の部品(CPUやマザーボードなど)を購入し、既存の計算機をアップグレードする予定だったが、コロナ禍による半導体供給不足の影響で購入を予定していたハイエンドCPUの需給状況が非常に悪く、適正な価格での入手が困難だった。令和3年の中盤以降に需給が改善されるという報道があったため、令和2年度は計算機部品の購入とアップグレードを見送り、既存の計算機で研究を行った(そのため令和2年度は計算負荷の比較的少ない研究を主に行った)。令和3年以降、計算機部品が入手可能になり次第部品の購入を進め、より計算負荷の高い計算に用いる予定である。
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