2023 Fiscal Year Research-status Report
ハイドロトロープとしてのATP:細胞環境シミュレーションによる物理化学的解明
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19K05389
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Research Institution | Maebashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
優 乙石 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (90402544)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ATP / 蛋白質間相互作用 / 分子動力学 / 分子混雑 / 細胞環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞質内に存在するATP(アデノシン三リン酸)が蛋白質凝集や液液相分離構造(LLPS)の形成を制御している可能性が実験的観測によって示されている(A. Patel and L. Malinovska, Science, 753 (2017))。しかしATPが蛋白質のいかなる部位に作用し、どのような分子間相互作用によって蛋白質同士の過剰な凝集を抑制しているかについては不明な点が多い。本研究課題はこの問題について分子動力学(MD)シミュレーションを中心とした理論的手法によって解明することを目的としている。 本年度は、主に①RNA結合蛋白質FUS(Fused in sarcoma)の低複雑性領域(LCドメイン:以降FUS-LCと表記する)が複数分子溶け込んでいる分子混雑モデルを作成した。これについて、使用する水分子モデルやイオン濃度などを変え、様々な条件下でMDシミュレーションを実行し、凝集体に与えるATPの添加効果を調査した。②細胞質内のに存在する様々な代謝物(ATPなどのヌクレオチド三リン酸や各種イオン)が蛋白質相互作用に与える影響調査するため、前年度までに完了した大規模MDトラジェクトリデータの解析を進めた。具体的な成果については後述する。③細胞環境のように多数の分子が共存する大規模シミュレーションデータを並列的に解析するためのプログラムの開発・実装を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①についてはATP添加による凝集体の不安定化が観察された。また、イオン濃度や水分子モデルの変化が個々のFUS分子の柔軟性に与える影響についてもデータが得られた。②についてはATPやその他の代謝物のダイナミクスに着目し、それぞれの特徴を明らかにした。解析結果をまとめ論文化を進めている。③については実装やベンチマークが完了し学術論文に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にむけて、現在までのシミュレーション結果を整理し、論文として発表する事を優先する。大規模細胞質モデルについては、すでに論文化が進められており、年度前半の論文投稿を目標とする。また、解析プログラムの開発についても引き続き高機能化を推進する。
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Causes of Carryover |
オンライン会議等の普及によって旅費や宿泊費の支出の多くが不必要になったことに加え、必要なシミュレーションデータを得るために研究計画をさらに1年延長し、必要経費の一部を最終年度に残したため次年度使用額が生じた。今後は研究会や学会などの出張費や論文投稿の際の英文校閲費およびデータ保存のためのストレージなど必要機材に使用する予定である。
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