2020 Fiscal Year Research-status Report
イオン液体はなぜ融点が低いか:配座エントロピーの役割の解明
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19K05393
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
遠藤 太佳嗣 同志社大学, 理工学部, 准教授 (50743837)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオン液体 / 融点 / 融解エントロピー / コンフォメーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、イオン液体は何故異常に融点が低いのかについて、配座エントロピーの観点から明らかにすることにある。 2020年度は、まず、配座エントロピーの役割を明らかにするために、逆説的なアプローチとして、配座エントロピーのない剛直なイオン液体(或いは有機塩)を20種類以上合成し、その熱物性を測定した。その結果、これらのイオン液体は、配座エントロピーがないことから、確かに、融解エントロピーは、それほど大きくはなかったが、一方、融解エンタルピーも比較的小さかったために、室温付近で液体状態を示すものが多かった。これはつまり、イオン液体の低融点化には、必ずしも高い配座エントロピーを有するアルキル鎖が必要なわけではないことを示唆している。 他方、配座エントロピーを定量的に議論するために、アルキル鎖長の異なるイオン液体を合成し、実験・シミュレーション両面から、液体状態における配座エントロピー及びその変化を見積もった。1H NMRスペクトルのJ結合の値から、アルキル鎖を伸ばしていくと、hexyl基以下では、J結合値は一定だったが、それ以上では、J結合値が変化することが分かった。この傾向は、分子動力学計算の結果と一致した。イオン液体は、アルキル鎖を伸ばしていくと、アルキル鎖同士が集合し、ナノレベルでの相分離を起こすことが知られている。NMRの結果は、アルキル鎖同士が集まることで、より密に詰まることが出来るtrans構造をとるようになったためだと解釈される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体として「やや遅れている」という評価になったのは、やはりコロナの影響によるところが大きい。4月~6月の3か月間は、実験がほとんど出来なかった。また、その後も、コロナの予断の許さない状況が続いており、研究室として安全策をとらざるを得ず、研究のペースを思ったほど上げることが出来なかった。年度初めは、論文1報程度の投稿を見込んでいたが、それも達成できなかった。 以下に、項目に分けて、具体的な進捗を述べる。 ・合成及び熱測定:概ね順調であった。新規物質を含む、20種類以上のイオン液体或いは有機塩を合成し、その熱物性を測定し、上述の成果を得た。コロナ禍にも関わらず、それなりの進捗があったのは、当初は学生1名と進める予定だったところを、2名に増やし重点的に進めたことによる。 ・分光測定:やや遅れている。まず、昨年度進めたRaman測定から思ったほどの情報が得られなかったことから、今年度は、NMR分光のみで実験を進めた。それほど結果が出なかったのは、実験量の問題と思われる。液体状態の簡単な一次元測定はおおよそ終わったが、より詳細な情報を得るために、現在、二次元NMR測定を進めている。 ・シミュレーション:やや遅れている。これも、分光測定と同様、単純に実験量が少なかったことに加えて、力場の検討にもやや時間をとられてしまった。現在は、いくつか簡単な系の計算は終わったが、詳細な解析までは取り掛かれていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はまず、2つの成果をまとめたい。 一つは、熱測定の結果についてである。20種類以上のイオン液体及び有機塩の熱測定を行うことで、上述したような成果が出ている。得られた結果の再現性をとるとともに、更に10種類程度の結果を加えて、結果を間違いないものにしたい。実験結果を解釈するために、分子動力学計算も行い、これらを年度内に成果としてまとめる予定である。上手くいけば、本テーマの中心的な成果となると思われる。 もう一つは、液体状態での配座エントロピーの結果についてになる。上述したように核となる結果は出ているので、2次元NMR及び分子動力学計算の解析を進め、こちらも年度内にまとめる方向でいる。 上記の成果がまとまったら、続いては、固体状態での配座エントロピーの見積もり進めたい。具体的には、アルキル鎖の異なるイオン液体の結晶中での配座状態を、固体NMR(13C CP/MAS)を用いて進める予定でいる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、 コロナの影響により、計画していたほどの実験が出来なかったこと、及び、旅費の使用(対面形式での学会参加など)がなかったためである。 研究を加速させるために、当該年度では3名の学生(大学院生1名、学部生2名)だったのを、次年度は4名の学生(大学院生2名、学部生2名)とする。従来の計画に加えて、より多くのイオン液体の合成を予定しており、そのための経費と、可能であれば、学会参加への経費として使用したい。
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