2020 Fiscal Year Research-status Report
シングレットフィッションから生成した三重項融合による遅延蛍光の普遍則と個性の解明
Project/Area Number |
19K05395
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
関 和彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 上級主任研究員 (60344115)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 隆二 日本大学, 工学部, 教授 (60204509)
矢後 友暁 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (30451735)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 励起子 / 拡散 / 有機固体 / 異方性 |
Outline of Annual Research Achievements |
三重項フュッション(TF)は、非発光の2つの三重項励起子から、1つの一重項励起子が生じる現象であり、一重項励起子は遅延蛍光を発する。その逆過程の一重項フィッション(SF)は、1つの一重項励起子から2つの三重項励起子が生じる。パルス光弱励起下でのSFにより生成した三重項励起子対は、弱励起の下では、三重項励起子対と三重項励起子対との間の相互作用が無視できる。パルス光弱励起下でも、SFにより生成した三重項励起子対は有機固体中で拡散し、TFを起こし一重項励起子から対遅延蛍光を発する。パルス光弱励起下では、過渡蛍光の時間依存性は励起光強度依存性を示さない。この対遅延蛍光の減衰の長時間成分は、拡散により三重項対が再生する時間分布(再生時間分布)を用いて、理論的に求めることができる。本研究では、有機固体の異方的な拡散を考慮し、三重項対が再生するまでの時間分布(再生時間分布)を求めた。計測については、三重項励起子の拡散の異方性が良く分かっている低分子有機結晶、具体的には、昇華精製したテトラセンおよびルブレンを用いた。有機結晶の大きな異方性を考慮するためには、拡散により三重項対が再生する時間分布を精密に求める必要がある。本研究で開発した方法、既存の解析的な方法を比較検討し、最適な理論を選択した。また、磁場依存性を考慮できる様に、スピン状態を考慮した。正方格子を用いて、三重項励起子対が解離する異方性が三重項の拡散の異方性と等しいと仮定し、有機結晶の非等方性の度合いが対遅延蛍光に及ぼす影響を求めた。この結果を踏まえて、テトラセンおよびルブレン結晶に対して、10nsからμ秒の過渡蛍光計測を行った。理論解析結果と報告されている三重項励起子拡散の異方性とを比較した。以上の結果をもとに、TFの過渡蛍光計測により、有機固体の異方的な拡散をプローブする可能性を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた解析を行うことができ、計画通りに進捗している。3次元での励起子拡散が、2次元面内の等方的な拡散と、この面内の拡散係数とは異なる面間の拡散で表される場合には、対遅延蛍光の減衰は、初期には2次元拡散を反映した時間の逆数(1/t)の減衰を示し、その後、三次元性を反映した-1.5のべき則に従う減衰を示すことを理論的に示した。ただし、この低次元結晶の異方性を反映した対遅延蛍光の減衰を観測する為には、拡散係数の異方性は少なくとも1000倍程度必要であることが理論的に示された。テトラセン結晶では、異方性が100倍から1000倍程度であり、2次元ではなく3次元の拡散に特徴的な対遅延蛍光の減衰のみが観測された。一方、面間の拡散が無視できるが、面内拡散に異方性がある場合には、1次元拡散による漸近的な-1.5のべき則から2次元拡散を反映した時間の逆数(1/t)の減衰への遷移は、観測し難いことを示した。これは、1次元拡散による漸近的な減衰を示す時間領域が遅く、1次元拡散から2次元拡散への遷移が起こる時間では信号強度が小さ過ぎる為である。拡散がほとんど起こらない結晶軸を持っているルブレンについての観測では、一次元拡散に由来すると考えられる、蛍光減衰のみが観測された。以上の結果は物理化学の分野での主要な学術雑誌であるJournal of Physical Chemistry 誌で報告された。[K. Seki, T. Yoshida, T. Yago, M. Wakasa, and R. Katoh, J. Phys.Chem. C 125, 3295 (2021).]数ヶ月後に、TFによるルブレンからの対遅延蛍光の測定により、結晶の異方性をプローブする論文がPhysical Review B誌に掲載されており、時宜にかなった成果を挙げることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
テトラセンを用いたパルス光弱励起下でのTFによる対遅延蛍光の測定では、等方3次元拡散を仮定して得られるべき則での減衰が見られることが、他のグループからも報告されている。[J. Phys. Chem. Lett. 11, 20, 8703 (2020).他 ] これらの結果は、2次元拡散を反映した時間減衰には、拡散係数の異方性は少なくとも1000倍程度必要であるという、これまで得られた結果と整合する。これに対して、ルブレンでは、対遅延蛍光は三重項励起子の1次元拡散を反映した減衰を示すと解釈できる結果であったが、他のグループからは三重項励起子の2次元拡散を反映した減衰を示すと解釈できる結果が得られている。[Phys. Rev. B 103, L201201 (2021)] 不純物の効果、三重項励起子の寿命の効果、結晶多形の効果等、これまで検討が不十分であった効果について調査する予定である。励起光の強度を増大させると、遅延蛍光の過渡減衰に励起光強度依存性が顕著となる。励起光強度依存性やこれまで考慮されていなかった磁場依存性についても研究を推進する予定である。昨年度はセキュリティのために、オンラインミーティングに参加することに対する研究所からの制限があったが現在では緩和されている。本年度は、これまでの成果について学会発表を行い、成果の普及を図る一方、研究討論の結果を反映させて研究を推進させる予定である。
|
Research Products
(1 results)