2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05396
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 幸裕 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40443197)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 有機導体 / 表面・界面物性 / 分子性固体 / 電荷移動錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,電子供与性分子(ドナー)と電子受容性分子(アクセプター)結晶の接触界面で相互の電荷の移動が生じ,界面分子の電子構造が開殻化することが明らかになった。このことからドナー分子結晶とアクセプター結晶の接触界面では,機能の源となる不対電子やスピンが生じていることが期待される。この分子(多)結晶を接触させるという非常に単純かつ安価な方法で,様々な機能を発現させることができれば,低コストでの材料開発やデバイス作製が可能となる。特に原油からの廃棄物などで材料開発が行えれば,更なる低コストでの開発が可能になる。ここで本研究では,分子固体の接触界面で乗じる電荷移動現象を理解し,それにより機能を探索する研究を行った。 (1)分子結晶界面で生じる電荷移動現象 前年度に引き続き分子結晶界面で生じる電荷移動現象について詳細に調べた。対象とした材料は,ポルフィリン系化合物,ペンタセンやルブレンなどを用いた。これらの材料にアクセプター分子としてTCNQ誘導体やキノン誘導体結晶を接触させ,ドナー/アクセプターからなる分子薄膜接触界面を作製した。これらすべての界面で,面抵抗の低下が確認され,どのような組み合わせでも界面での電荷注入が行われていることが確認された。特にポルフィリン系化合物の界面では,走査型プローブ顕微鏡やESR,拡散反射スペクトルなどでその電荷移動現象が分かりやすく観察され,この系について報告準備を始めている。 (2)thermosalient効果を持つ結晶の解析 上記の接触界面を作製している過程で,固相反応で生じた電荷移動錯体結晶も得られた。その中の1種であるTMB-TCNQは,古くから知られる電荷移動錯体結晶であるが,その相転移の際に結晶が飛び跳ねるサーモサリエント効果を発現することを明らかにした。この結果は,査読のある学術雑誌上にて報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に有機分子の薄膜作製装置を立ち上げ,SiO2基板上にピレン,ペリレン,ペンタセン,ルブレンなどのドナー性半導体材料の質の良い薄膜を得ることに成功した。本年においては,更に可視領域に吸収を持ち太陽電池等への応用が期待できるポルフィリン系化合物,および原油から抽出されるアントラセンやジベンゾチオフェンなどの様々な分子薄膜を作製することに成功し,それらを用いた薄膜や結晶による接触界面を得ることが出来ている。更には,それらの界面の評価も行い,ポルフィリン系化合物/F2TCNQ界面では,論文投稿の段階まで進んでいることから本研究は概ね順調に進んでいると考えている。 (1)ドナー/アクセプター分子薄膜の接触界面 初年度は,SiO2基板上にポルフィリン系化合物,ペンタセン,ルブレンなどのドナー性半導体材料の作製を行った。AFMや伝導度測定などにより薄膜の品質を評価したところ,ポルフィリン系化合物とペンタセン薄膜において結晶間の隙間の少ない薄膜が得られた。またアクセプター分子には,TCNQ誘導体を用いたところ,どの誘導体においても良質な薄膜が得られた。これらのドナーとアクセプターのどのような組み合わせでも接触界面の高伝導化が確認された。 (2)原油廃棄物などの安価な分子の薄膜を用いた接触界面 ドナー分子として原油から抽出されるアントラセンやジベンゾチオフェンなどの安価な分子も用いて,伝導機能の創成を試みた。その結果,F2TCNQだけでなく極めて安価なアクセプターであるジクロロジシアノキノン(DDQ)の接触界面において,高伝導化を確認することに成功した。更にはアントラセンやジベンゾチオフェンでは,隙間のない多結晶薄膜を溶液法で作製することにも成功している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も,継続してドナー/アクセプター薄膜接触界面を作製し,その評価を行う。薄膜の特徴を活かして,薄膜X線や導電性AFM,SQUIDなど様々な手法で評価する。 (1)ドナー/アクセプター薄膜接触界面を作製 本年度,良質な薄膜を低コストな溶液法で作製することに成功したアントラセンやジベンゾチオフェンを中心に様々な継続してドナー/アクセプター薄膜接触界面を作製し,それらの系統的な評価を行う。またこれらの薄膜は,SiO2上に作製している為に,トランジスタとしての評価も可能である。この為,原油からの抽出される極めて安価な分子を用いた薄膜接触界面の電界効果についても詳細に検討したい。 (2)イオン性基底状態の電荷移動錯体とドナー分子薄膜の接触界面 またいくつかのMott絶縁体や三角格子系やスピンラダー系などの材料の薄膜化を試みる。これらの材料とドナー分子の接触を検討し,この界面に生じる機能を探索したいと考えている。またこれらの系では,トランジスタによる物理的な電荷注入と比較し,本研究で対象としている化学的電荷注入の特徴を明確にしたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
当初,共同研究および研究指導を行っている学生と共に,2020年冬に行われるPachifichem国際会議に出席し情報収集および成果報告を行う予定であった。しかしながら新型コロナウィルスの影響で,延期開催となったため,この予算(40万円)を翌年に繰り越した。これについては次年度の代替となる国際会議出席のための予算とする計画である。
|