2021 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of structural diversity in pi-electron-hydrogen-coupled organic conductors
Project/Area Number |
19K05397
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
上田 顕 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (20589585)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 有機伝導体 / テトラチアフルバレン / カルボン酸 / 脱プロトン化 / π電子-水素連動 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度新たに開発に成功したカルボン酸導入型テトラチアフルバレン(TTF)を基盤としたπ電子-水素連動型有機伝導体のさらなる物質探索、構造物性調査に取り組んだ。具体的には、カルボン酸部位をもう一つ導入し、分子の対称性を向上させた新規誘導体(TTF-ジカルボン酸分子)を設計・合成し、これを用いた新しいタイプの「π電子-水素連動型有機伝導体」の開発に成功した。 室温下における単結晶X線構造解析の結果、この物質は、TTF-ジカルボン酸分子と一価の無機アニオン(PF6やBF4)、そして結晶溶媒から構成されており、その組成比は2:1:1であることが分かった。従って、TTF-ジカルボン酸分子の平均電荷は+0.5であると考えられる。その一方で、分子の結合長から電荷を見積もるとTTF部位は+0.7~+0.9価に酸化されていることが示唆された。結晶構造を詳細に観察すると、カルボン酸部位にはディスオーダーが存在しており、部分的な脱プロトン化が生じている可能性が示唆された。すなわち、カルボキシ基部分が-0.2~-0.4価、TTF部位は+0.7~+0.9価となることで、分子全体として+0.5価となり、結晶全体の電気的中性を満たしていると考えられる。従って、カルボキシ基部の部分的な脱プロトン化とTTFのπ電子の酸化が連動・相関することで、特異な価数、電子状態が実現したことが明らかとなった。単結晶を用いた電気抵抗率測定の結果、半導体的ではあるものの、室温下で0.2~0.5 S/cm 程度の良好な電気伝導性を有することが分かった。今後はラマン分光測定や、極低温までの磁化率測定やX線構造解析を行い、脱プロトン化度合いやTTF部の電荷、そして構造物性相関について詳細に考察する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
π電子-水素連動型有機伝導体の新たな構成要素となるTTF誘導体の開発に成功し、これを基にして、脱プロトン化とπ電子の酸化が連動した特異なπ電子-水素連動現象の創出に成功したため。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はラマン分光測定や、極低温までの磁化率測定やX線構造解析を行い、脱プロトン化度合いやTTF部の電荷、そして構造物性相関について詳細に考察する予定である。さらに、他の対アニオンを用いた伝導体結晶の作成や、カルボン酸プロトンの重水素化なども検討する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、予定していた学会出張が取りやめとなったり、研究活動が一部制限されたことにより、予算の使用計画の見直しが必要となり、次年度使用額が生じた。上述の通り、画期的な化合物が開発できたので、この物質の大量合成、そして構造物性測定を効率的に行えるように予算を配分し、研究を進めていく。
|