2020 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical design of single molecule transistor using metal complexes with open-shell electronic states
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19K05401
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北河 康隆 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60362612)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 単分子トランジスタ / 開殻電子状態 / 金属錯体 / 理論計算 / 分子設計 / 量子化学 / 分子回路 / 単分子磁石 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では『1分子でトランジスタ機能を有する化合物を、どのように量子化学理論に立脚しデザインするか』という観点から、『開殻電子状態を有する錯体に着目し、スピン状態などにより電気伝導度が大きく異なるような分子を理論設計する』ことを目的としている。その達成のために、(1)実在する1次元錯体や単分子磁石錯体において、スピン多重度などを変えた時の伝導性の変化を、量子化学計算により明らかにし、(2)『分子構造・スピン状態(電子状態)と電気伝導性』の関係性を分子軌道レベルで解明することにより、1分子トランジスタとして機能する錯体の設計指針を構築する。そして(3)具体的な錯体を提案し、予想される物性値を示す、という三点を遂行することを目標としている。 昨年度、金属2核錯体に軌道相補性という概念を導入することにより、2つの金属イオン間の磁気的相互作用を反強磁性的、強磁性的とを自在に作り分けることができる可能性を密度汎関数法(DFT)計算により示すことに成功したが(Magnetochemistry 2020, 6, 10)、2020年度は、さらに研究を進め具体的な化合物を提案し、国際会議での口頭発表(2件)において発表した。また、単分子磁石のスピン・電子状態の研究も東北大学・山下グループとの共同で行い、磁性とスピンの非局在性(伝導性に関係)との関係を示すことに成功した。この成果も論文(Chem. Euro. J., 2020, 26, 8621)にまとめた。加えて、Ru2核錯体とTCNQ誘導体とを組み合わせ配位高分子を作ることにより、吸蔵二酸化炭素により電子状態の変化が起こることを、東北大学・宮坂グループとの共同研究により見出した。この成果は論文(Nature Chemistry, 2021, 13, 191)にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究プロジェクトでは例えばスピン状態の違いによる伝導度の違いなどを利用し、単分子トランジスタの実現を目指している。したがって、そのためにはいかにしてスピン状態の異なる錯体を作り分けられるかという点も重要となる。上述の通り、本年度はスピン状態の異なる具体的な錯体の設計を提案し、スイッチング機能を有する錯体の分子設計へつなげることに成功した。これは、単分子トランジスタへの重要なステップである。また、分子1つで磁石のように振る舞い、将来の大容量記憶媒体の材料と考えられている単分子磁石において、スピンの非局在性を評価することにも成功した。これは、伝導性の大小と直結することから、単分子磁石を単分子デバイスとして活用するという視点からも興味深い結果である。本年度の最も重要な成果として、多孔性錯体内での吸着分子による磁性変化の発見が挙げられる。これはCO2の吸着により金属イオンと配位子との間の電子移動が生じ、結果としてスピン状態が変化するというものである。つまり、これは分子吸着によるスイッチングを意味しており、今後の展開に大いにつながる成果が得られた。したがって、これらの成果を組み合わせることにより、当初の想定を超えた新たな単分子トランジスタの可能性を議論することが可能となった。以上の点より、(2)概ね順調に進展している、と結論づけることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
これでの2年間では単分子トランジスタの可能性として、①拡張金属原子鎖(EMACs)のスピン状態の違い、②単分子磁石における、スピンの非局在性の違い、③多孔性錯体内での吸着分子によるトランジスタの可能性、などを検討することができた。加えて、④生体内酵素活性中心の水素結合による酸化還元電位制御に着想を得た、水素結合によるトランジスタの可能性も検討した。最終年度は、これまでに得られた①~④などのアイディアに基づき、外場により伝導性のon/offが可能な単分子でトランジスタとして機能する錯体の設計指針を構築し、具体的な化合物の提案と予想される物性値を示すことを実行する。その際、多変量解析など、現在の機械学習で用いられている手法も積極的に導入し、研究を進めることとする。また、次へのプロジェクトの礎として、単分子で回路を作成できるのか、という視点からも研究を進めたいと考えている。具体的にはπ共役系からなる単分子伝導や回路設計にも着手し、単分子ダイオードのみにとどまらず、広く分子回路の可能性を探ることとする。
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Causes of Carryover |
2020年度はCOVID-19の感染拡大防止の観点から全ての国内外の学会が中止、延期、あるいはオンライン開催となった。その結果、当初予定していた学会発表にかかる出張旅費がゼロとなり、予算との差額が生じた。
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