2019 Fiscal Year Research-status Report
分子性結晶への包接による難分離性混合物の分離を志向した新規鎖状ホストの開発
Project/Area Number |
19K05415
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
服部 徹太郎 東北大学, 工学研究科, 教授 (70241536)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工ホスト分子 / 多孔性分子結晶 / 包接 / 異性体の分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.TCAの部分構造をもつ鎖状ホストの開発:p-tert-ブチルフェノールの硫黄架橋二量体のo,o’-位に水素結合部位(X)としてカルボキシメチレン基を導入したジカルボン酸型ホスト1およびそのモノイソプロピルエステル2を用いて,アミン類の位置または立体異性体の混合物に対する競争的包接実験を行い,異性体選択性およびその発現機構を詳細に調べた。ジカルボン酸1による2-, 3-, および4-メチルピリジン混合物からの包接では,4-位異性体を速度論的支配により選択的に包接できる条件をみいだした。2-, 6-, および8-メチルキノリン混合物からの包接では,用いる溶媒により,2-および6-位異性体が,それぞれ高選択的に包接された。モノエステル2によるcis-およびtrans-4-メチルシクロヘキサン混合物からの包接では,熱力学的支配によりtrans-異性体が選択的に包接された。これらの知見をもとに,選択的に包接した各異性体を,異性体の等モル混合物から,回収率43~74%,異性体純度87~97%で分離する方法を見出した。これらの異性体の分離は他の方法では難しく,本研究の成果は,新規ホスト分子の包接能に関する基礎化学的な知見を与えるのみならず,実用面での応用が期待できる。 側鎖Xにヒドロキシメチレン基を導入したホスト3(H2L)をメタノール中で酢酸亜鉛と反応させると,Zn4L2(OMe)2(OAc)2の組成の錯体が得られた。この錯体の結晶が,アセトキシと配位子交換して芳香族カルボン酸類を包接できることを見出した。 2.ホストの予備組織化による中性ゲストへの適用性の拡大:ジオール3の2つのフェノール性ヒドロキシ基をメチレンで架橋した環状アセタール型ジオール4を合成した。また,このホストの結晶が,アルコール類を包接できることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,酸性ゲストの包接については,側鎖Xとして水素受容性官能基を導入したホストを合成して検討する予定であった。しかし,本年度の研究で,ジオール型ホスト3の金属錯体がカルボン酸類の包接に対して高い分離能を示すことを示唆する結果が得られたので,この方向性で検討を進めることにする。また,当初の計画では,本年度の予算でワークステーションを購入し,計算科学的手法を包接錯体やその結晶構造に用いて,合成したホストに適するゲストの探索や,中性ゲストの包接に適するホストの設計や改良を試みる予定であったが,期待どおりの予算配分が得られなかったため,別予算で購入したシステムを利用することにした。その結果,マシンタイムを十分に確保することができず,計算化学的手法による検討については,進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,当初の研究計画に従い,また本年度に得られた知見を基に,以下の検討を行う。 1.TCAの部分構造をもつ鎖状ホストの開発:ホスト3(H2L)の金属錯体の結晶を用いるカルボン酸類の包接の選択性と定量性について詳細に検討する。 2.ホストの予備組織化による中性ゲストへの適用性の拡大:アセタール型ジオール4のアルコール類をはじめとするゲストに対する包接能の検討,および計算科学的手法によるゲストの探索とホストの改良を行う。 3.不斉要素の導入による鏡像異性体の包接への展開:2つの側鎖Xに異なる置換基を導入し,硫黄原子をスルホキシドに酸化することにより,キラルなホスト化合物を合成する。また,それを用いる鏡像異性体の包接について検討する。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況で述べたように,期待どおりの予算配分が得られなかったため,当初計画していたワークステーションの購入を見送ったこと,コロナウイルスの蔓延防止のため,参加を予定していた学会が中止されたことにより,未消化予算が生じている。これらの予算は,次年度の予算と合わせて,本研究の遂行のために必要なソフトウェアの購入やソフトウェアの使用にかかる技術サポート料,本年度に行われる学会への参加費・旅費などに充てる予定である。
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