2020 Fiscal Year Research-status Report
分子性結晶への包接による難分離性混合物の分離を志向した新規鎖状ホストの開発
Project/Area Number |
19K05415
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
服部 徹太郎 東北大学, 工学研究科, 教授 (70241536)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工ホスト分子 / 多孔性分子結晶 / 包接 / 異性体の分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.TCAの部分構造をもつ鎖状ホストの開発:6,6'-チオビス(4-tert-ブチル-2-ヒドロキシメチルフェノール)(3, H2L)の4核亜鉛錯体Zn4L2(OMe)2(OAc)2(4)のX線結晶構造解析を行い,錯体の構造および結晶中でのパッキング構造を明らかにするとともに,4の結晶によるアニス酸およびナフトエ酸の包接について詳細に調べた。4は反転中心をもち2つの金属中心に酢酸イオンが配位している。o-,m-,p-アニス酸または1-,2-ナフトエ酸を2モル当量ずつ含むメタノール溶液から,それぞれ,o-アニス酸および1-ナフトエ酸を完全な異性体選択性かつ80%以上の高い定量性で捕捉した。それぞれのカルボン酸を捕捉した錯体のX線結晶構造解析から,4の結晶をカルボン酸の溶液に浸漬すると,酢酸イオンとの配位子交換によりカルボン酸イオンが結晶中に取り込まれることがわかった。結晶で4は密に充填されているが,捕捉するカルボン酸に応じて集積構造が大きく変化し,精密にゲストの構造を識別していることがわかった。このような性質は,ゼオライトや金属有機構造体など,分子ふるい効果によりゲスト選択性を発現する多孔性材料にはない,本研究の分子性結晶による分離材料に特有の性質である。 2.ホストの予備組織化による中性ゲストへの適用性の拡大:ホスト分子3のフェノール性ヒドロキシ基をメチレンで架橋した環状アセタール型ジオール4について,分子力場計算ソフトCONFLEXのホスト/リガンド配位探索機能を用いて,4による種々のゲスト分子の包接構造を解析した。その結果に基づいて,再結晶法またはホスト結晶を用いる方法で4による2置換シクロヘキサンの位置および立体異性体の認識能を調べたところ,幾つかのシクロヘキサンジオールおよびシクロヘキサンジアミンに対してゲスト選択性がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,ワークステーションを購入し,計算科学的手法を用いて中性ゲストの包接に適するホストの設計や改良を試みる予定であったが,期待どおりの予算配分が得られなかったため,別予算で購入したシステムを利用している。そのため,マシンタイムを十分に確保できないこと,また,本年度の研究で,環状アセタール型ジオール4がシクロヘキサンジオールに対して良好な異性体識別能を示すことがわかったことから,4による2置換シクロヘキサン類の異性体識別について計算化学と実験化学の両面から詳細に検討することにする。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,当初の研究計画に従い,また本年度に得られた知見を基に,以下の検討を行う。 1.ホストの予備組織化による中性ゲストへの適用性の拡大:アセタール型ジオール4の2置換シクロヘキサン類に対する包接能を計算化学と実験化学の両面から詳細に検討する。 2.不斉要素の導入による鏡像異性体の包接への展開:2,2'-チオビス(4-tert-ブチルフェノール)の6,6’-位に異なる置換基を導入し,硫黄原子をスルホキシドに酸化することにより,キラルなホスト化合物を合成する。また,それを用いる鏡像異性体の包接について検討する。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況で述べたように,期待どおりの予算配分が得られなかったため,当初計画していたワークステーションの購入を見送ったこと,コロナウイルスの蔓延防止のため,参加を予定していた学会が中止またはオンラインになったことにより,未消化予算が生じている。これらの予算は,次年度の予算と合わせて,本研究の遂行のために使用する。
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