2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K05418
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大谷 裕之 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (30213763)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊與田 正彦 東京都立大学, 理学研究科, 客員教授 (50115995)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環集合型巨大環状π共役系分子 / ベイポクロミズム / πダイマー / 三次元芳香族分子 / 有機導電性特性 / トロポノイド環状2核錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
巨大環状π共役系を分子設計・合成し,その性質と機能を解明することが本研究の目的である。この目的を遂行するために,① ヘテロ芳香環を含む巨大環状共役系の合成とその機能に関する研究、および ② 剛直な三次元構造を有する新規π拡張環状共役系分子の合成とその機能に関する研究、の2つのテーマを設定し実施している。本研究では,環集合型巨大環状π共役系分子を効果的に合成してその性質・機能を調査し、巨大分子の持つ新機能の創出を調査して,ナノ分子化学や有機機能材料に関する新知見を提供することを目指した。 ①の研究テーマでは、π拡張大環状オリゴチオフェンに関する研究をさらに深化した研究を実施した。その結果、以下の新たな成果が得られた。 (a)チオフェン環上の置換基が全てフェニル基のπ拡張チオフェン6量体のファイバーが、用いる溶媒の吸脱着に伴い色調変化(ベイポクロミズム)しさらに併せて屈曲運動するファイバーであることを見出した。(b)チオフェン環上の置換基を小さくしたπ拡張チオフェン6量体の酸化成績体であるカチオンラジカル種が、πダイマーを形成し三次元芳香族分子として振舞う事を見出した。さらに、(a)と(b)との知見を基に、π拡張チオフェン6量体の合成条件の改良を検討した結果、チオフェン環に置換基を持たない3種類の新たな環状6量体が合成できその有機導電性特性などの機能を調査した。 ②の研究テーマでは,剛直な三次元構造を有する新規π拡張環状共役系分子の合成と物性の探索およびそれらの分子集合体としての機能に関する調査を目的として実施している。このテーマの標的分子の一つとして、アントラセンの1位と8位にエチニルトロポノイドが置換した分子を合成し、その構造および特性を調査すると共に、その2核環状錯体(トロポノイド環状2核錯体)の酸化成績体において珍しい性質を示すことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウィルス感染症に対する予防処置の為、春学期は殆ど研究が停滞していた。しかし、秋以降の努力により新たに国際論文誌に2報の論文を掲載することができた。①の研究テーマ「ヘテロ芳香環を含む巨大環状共役系の合成とその機能に関する研究」では、 (a) フェニル環などの嵩高い置換基の導入によって色調の変化を伴うポリモルフィズムを起こす分子に関してそのナノ集積体の新機能について調査し、ファイバー化したナノ集積体がベイポクロミズム挙動を伴って大きく形状変化すことを見出報告した(J. Am. Chem. Soc., 2020, 142(32), 13662 -13666に掲載)。(b)高いHOMOを持ちかつ安定な酸化種を形成する巨大環状共役系分子を構築にチャレンジして、三次元にπ共役系が拡張した70π電子芳香族性に関する新たな知見を得ることが出来たことを報告した(J. Am. Chem. Soc., 2020, 142(13), 5933 -5937に掲載)。また、(c)新規π拡張大環状オリゴチオフェンの改良合成法、構造解析、光学特性、およびOFET特性について報告した(J. Org. Chem., 2021, 86(1),302-309に掲載)。 ②の研究テーマ「剛直な三次元構造を有する新規π拡張環状共役系分子の合成とその機能に関する研究」の一つの標的分子であるトロポノイドの錯形成挙動を活用した幾つかの2核環状錯体(Cu2+、Ni2+,あるいはPd2+)を合成し、それらの錯体の構造や光学特性について検討した。また、標的のCu2+イオン錯体においてπ系を介した弱い銅(Ⅱ)-銅(Ⅱ)間のスピン相互作用に関する知見がえられた。現在比較単核錯体の物性を調査しており、その結果と併せて投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は「新型コロナウィルス感染予防対策」の対応により、春学期は研究室運営が大きく停滞していた。しかしながら、春学期以降は研究活動が再開されたことにより、2021年度は以前の体制で研究が出来るよう努める。今後の社会情勢の変化にうまく対応しつつ本研究を完成させるべく鋭意努力していく所存である。2021年度は本研究の最終年度となる。 2021年度においては、研究の進捗状況に記載した研究テーマ②のトロポノイド2核環状錯体の酸化挙動に関する研究の完成を目指し、2021年度中に権威ある化学論文誌に投稿できるように努力する。さらに、① ヘテロ芳香環を含む巨大環状共役系の合成とその機能に関する研究では、2020年度中に新たな分子設計と合成並びにそれらの基本物性検討が実施できたので、その完成を目指して更なる努力を行う予定でいる。なお、2020年度に引く続き、研究分担者〔伊與田正彦教授(東京都立大学・名誉教授・客員教授)〕と綿密な連携をとりながら進める所存である。研究代表者は,π拡張巨大環状共役系の創製と構造解析,単分子としての物性解明,およびそれらの超分子構造体の創製を担当する。また,研究分担者は,本研究課題で合成したπ拡張巨大環状共役系のモルフォロジーを制御して種々の超分子集積体を構築し,その構造解析に基づく新機能の探索を行う。 本研究の最終年度である2021年度においては、本研究の完成に向けて邁進する所存である。
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Causes of Carryover |
2020年度の当初予算で見積もっていた物品費および旅費において、「新型コロナウィルス感染予防対策」の対応により、春学期の間殆ど研究実験を実施することができなかった。併せて、参加した学会が全て「新型コロナウィルス感染予防対策」の観点からオンライン開催となり旅費を使用することができなかった。しかしながら、秋学期以降では研究実験を再開することができた。その際、旧式の実験機器類(マグネチックスターラーやダイヤフラムポンプなど)が故障したため、それらを更新する為に購入した。しかしながら、物品費の内、本研究の主要な合成実験において、試薬や有機溶媒などの合成実験に欠かすことのできない消耗品の購入実績が年間を通じて低下した。以上の理由により、2020年度の予算の\123,978が未使用となり2021年度の使用となることとなった。 2021年度については、この\123,978は物品費として消耗品(試薬あるいは有機溶媒)の購入に活用する計画である。今年度も社会情勢の変化によっては、学生の登校制限という予期せぬ事態が生じことも懸念されるが、計画年度として本研究を完成するよう努力する所存である。
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Research Products
(8 results)