2019 Fiscal Year Research-status Report
ルイス酸部位を有する遷移金属錯体の特徴を活かした触媒反応開発
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19K05458
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
小野寺 玄 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (90433698)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ホスフィン-ボラン / パラジウム / アリルアルコール / シリルエノラート / アリル化反応 / 金 / 付加環化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに、ホスフィン-ボラン配位子を用いたパラジウム触媒による高効率なアリル位置換反応の開発に成功している。この反応では、配位子上のルイス酸性のホウ素部位と中心のパラジウムとが1つの分子内で協働作用することで効率的に反応が進行するという知見を得ている。本研究ではこの知見を踏まえ、ホスフィン―ボラン配位子を各種遷移金属錯体触媒と組み合わせ、ルイス酸部位を有する遷移金属触媒の適用範囲の拡大を目指して研究を行っている。 今年度は主に以下の触媒反応について検討を進めた。1つは、アリルアルコールによるアルデヒドのα位アリル化反応である。この反応ではアリルアルコールがパラジウムへと酸化的付加することで求電子的なπ-アリルパラジウム中間体が生成し、アルデヒドのα位炭素が求核攻撃することで炭素-炭素結合形成反応が進行した。目的生成物の収率も高く基質適用範囲も広かったが、ホスフィン-ボラン配位子の代わりにホウ素部位を持たないホスフィン配位子を用いても同程度の収率で目的生成物が得られることがわかった。一方、アリルアルコールによるシリルエノラートのアリル化反応についても研究を行った。種々の反応条件を最適化した結果、高収率で対応するα-アリルケトンが得られた。この反応においてはホスフィン-ボラン配位子が有効に働き、ホスフィン配位子とホウ素化合物を別々に添加した場合には収率が低下することが確認された。また、様々な位置に置換基を有するアリルアルコールを用いて位置選択性を調べたところ、水酸基のγ位選択的に炭素-炭素結合形成反応が進行することがわかった。金触媒を用いた分子内にアルキン部位を有する活性メチレン化合物の分子内付加環化反応についても研究を進めた。この反応では金錯体をカチオン性にするために銅塩を添加することが重要であることを突き止め、良好な収率で環化生成物を得ることができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、ホスフィン―ボラン配位子とパラジウム触媒を用いてアリルアルコールによるアルデヒドのα位アリル化反応の開発を行った。その結果、高収率で対応する生成物を得ることができたが、ホウ素部位を持たないホスフィン配位子を用いても同程度の収率で同じ化合物が得られることがわかった。その一方でシリルエノラートのアリル化反応についても種々の検討を行い、高収率で目的化合物を得ることができた。この反応ではリンとホウ素が連結されていることが重要であり、ホスフィン配位子とホウ素化合物を別々に加えると収率が低下した。当初計画していたアニソール類とアリールホウ素化合物とのクロスカップリング反応についても様々な検討を行ったが、ごくわずかに生成物が得られるのみであった。そこで、この反応においてはホスフィン-ボラン配位子にこだわらず、分子内にホウ素部位を有するN-ヘテロ環状カルベン、すなわちボリルカルベン化合物を新規配位子として設計した。設計した配位子を実際に合成してニッケル触媒の配位子として用いてクロスカップリング反応を行ったが、期待する触媒反応は進行しなかった。ホスフィン-ボラン配位子と金触媒を用いた分子内にアルキン部位を有する活性メチレン化合物の分子内付加環化反応についても予備検討を始めた。その結果、銅塩を添加することで目的の付加環化反応が進行することを見出した。以上のように、本研究は一部期待通りに進行しない触媒反応があったものの、当初計画していなかったシリルエノラートのアリル化反応が効率よく進行し、金触媒による付加環化反応の予備検討でも良好な結果が得られるなど、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
シリルエノラートのアリル化反応については、さらなる基質適用範囲の拡大と位置選択性を説明するための反応機構の解明を試みる。金触媒を用いたアルキン部位を有する活性メチレン化合物の付加環化反応については、反応条件を精査してより高収率で生成物を得ることを目指す。現時点では再現性に若干の問題があるため、再現性の改善も必須である。反応条件の中でも特に、この反応に適したホスフィン-ボラン配位子の構造を明らかにする。ホスフィンおよびホウ素上の置換基や、リンとホウ素を結ぶ炭素鎖の長さなどが収率に影響すると考えられる。基質に関しても、アルキン部位と活性メチレン部位とを結ぶ炭素鎖の長さやアルキン末端上の置換基、活性メチレンの種類など、調べるべきポイントは多い。様々な構造を持つ基質を合成し、その付加環化反応の収率を調べることで適用範囲を明らかにする。また、アニソール類とアリールホウ素化合物とのクロスカップリング反応について検討する過程で興味深い知見が得られた。アニソール類は炭素-酸素結合の切断が思うように進まずにカップリング反応が進行しなかったのだが、ベンジルアルコールを用いるとベンジル位でクロスカップリング反応が進行することがわかった。また、ベンズアルデヒドへのアリールホウ素化合物の付加反応も進行することを別途見出した。これら2つの反応については当初の計画には含めていないが、興味深い触媒反応であるため今後の研究で詳しく調べることとする。具体的には、反応条件の精査、特に配位子の構造と触媒反応の収率の関係を深く調べることによる効率の向上を目指し、高収率で目的のクロスカップリング反応が進行すれば基質適用範囲について明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
試薬類の無駄を省いて効率的に使用したことと、実験装置の故障等が当初の予想よりも少なく、消耗品費が予想よりも低額で済んだことが、次年度使用額が生じた主な理由である。また、2月から3月にかけては新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から研究活動が縮小されており、消耗品費が次年度使用となった。 令和2年度分として請求した助成金と合わせた使用計画を下記に示す。引き続き有機合成用試薬類および実験用消耗品が必要であるため、1,485,127円を物品費として使用する。学会発表に必要な旅費として当初の予定通り300,000円を計上する。その他経費として100,000円を計上し、合計で1,885,127円を使用する計画である。
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Research Products
(6 results)