2020 Fiscal Year Research-status Report
求核的0価炭素配位子を基盤とした高活性金属錯体の新機能創出
Project/Area Number |
19K05500
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保 和幸 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (90263665)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カルボジホスホラン / 白金錯体 / ヒドロシリル化反応 / ピンサー型錯体 / 多核錯体 / 鉄錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に調査したピンサー型カルボジホスホラン白金錯体を触媒として用いたアルキンのヒドロシリル化反応をさらに拡張し、2分子の白金錯体を銀イオンで会合させたPt2Ag2多核クラスターの反応性を検討した。ピンサー型カルボジホスホラン白金錯体にAgOTfを反応させると、カルボジホスホラン炭素ともう一分子の白金を銀(I)イオンが架橋した、2分子会合体が生成する。この錯体のヒドロシリル化触媒能を単量体と比較した。いくつかの溶媒用いて検討した結果、トルエン中で最も高い反応性が観測された。このとき、二量体はその多くが溶け残ったにも関わらず、単量体よりも高い反応性が観測された。今回用いたピンサー型カルボジホスホラン白金錯体においては反応開始にあたって1分子のホスフィンの解離を伴って空き配位座の形成が必要であると考えられる。二量体で反応性が高かった原因はこの解離したホスフィンをAgイオンが効果的にトラップすることにより、ホスフィンの白金原子への再配位を抑制していることがDFT計算などから示唆された。 カルボジホスホラン配位子の電気化学的、光化学的機能化を目的に、その骨格に遷移金属フラグメントを導入したメタラカルボジホスホランの合成を検討している。以前の研究では遷移金属フラグメントとしてフェロセン(CpFeCp)架橋を導入した。今回はピアノ椅子型鉄錯体フラグメント(CpFeL3)の導入を検討するにあたり、そのビルディングブロックとなるメタラホスフィンの合成を検討した。CpFe(CO)をテンプレートとすることにより、鉄の配位圏でκP(1),P(3)-P(1)NP(2)NP(3)骨格を有するメタラサイクルを合成した。このP(2)原子がドナーとして機能することを種々の金属との反応で確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Pt2Ag2多核カルボジホスホランの高いヒドロシリル化触媒能を見出したが、その低い溶解度のために現状では最大のパフォーマンスを引き出すには至っていない。最適反応条件の再検討や、錯体の溶解度を増加させる工夫などを今後検討する予定である。また、Ag原子にはホスフィントラップ以外にも白金との協働作用による触媒サイクルへの直接的な関与も期待されるため、反応機構の詳細な解明が必要である。 これまでに遷移金属フラグメントを導入したメタラカルボジホスホランやその前駆体となるメタラホスフィンの合成に成功している。しかし、単離の難しさ等によりこれらを用いた触媒合成やその反応性の調査が遅れている。触媒能の評価には不純物を含まない高純度サンプルが必要であることから、現状では錯体の合成法の改善や単離法の確立などへの取り組みがさらに必要である。 感染症対策により施設への立ち入り制限が課されるなど研究時間の制限による影響も大きかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、ピンサー型カルボジホスホラン白金錯体を用いたアルキンのヒドロシリル化反応を通して、基質の立体的、電子的性質の違いによるSi-H活性化段階への影響を詳細に検討する。さらに、基質適用範囲を明らかにするとともに、触媒の改良を検討する。また、ここで得られた結合活性化の知見を基に、ヒドロシラン以外のE-H活性化ならびにE-E活性化反応への拡張を行う(E = H, B, C, N, O, Si, P, S, halogen etc.)。これまでの単核錯体について得られた知見を基に、カルボジホスホラン錯体の集積による多核金属錯体の合成や反応性の検討を継続する。 これまでに開発した遷移金属フラグメントを導入したメタラカルボジホスホランならびにその前駆体であるメタラホスフィン配位子を用いた新規なメタラカルボジホスホラン錯体の合成と反応性を検討する。その酸化還元特性や光化学的性質を応用し、メタラカルボジホスホランを用いた新規反応性の開拓を行う。
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