2021 Fiscal Year Research-status Report
求核的0価炭素配位子を基盤とした高活性金属錯体の新機能創出
Project/Area Number |
19K05500
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保 和幸 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (90263665)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | カルボジホスホラン / 白金(II)錯体 / 触媒反応 / 結合活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は前年度に引き続き、ピンサー型カルボジホスホラン-白金(II)錯体のヒドロシリル化触媒能を検討した。R2年度までは基質としてアルキンを用いたヒドロシリル化反応を検討したが、R3年度はこれに加えてアルケンのヒドロシリル化についても検討した。その結果、上記錯体はスチレンのヒドロシリル化を触媒することが確認され、その系中では白金上にスチレンがπ配位した中間体の形成が示唆された。これに対して、立体的に嵩高さが増したスチルベンでは触媒反応が観測されず、π配位中間体の形成も見られなかった。このことから上記錯体の反応場はピンサー骨格による立体的制約を強く受けることが示唆され、今後のカルボジホスホラン骨格の設計と反応性の制御に関する有用な指針が得られた。 上記カルボジホスホラン-白金(II)錯体と不飽和小分子との反応を検討する一環としてE=C=E (E = O, S)との反応を検討した。ジメチルスルフィドを配位子として有するカルボジホスホラン錯体とCO2との反応では、CO2が還元されてCOとなり、これが白金に配位した白金カルボニル錯体の生成がESI-MSなどの測定によって確認された。しかしこの反応では副生するはずの酸化物を特定することができず再現性も悪かった。そこでより反応の追跡が容易なCS2との反応を検討した。その結果、ホスフィンを配位子として有する錯体を用いて反応を行ったところ、期待された白金CS錯体の生成に加えてホスフィンが硫化された遊離ホスフィンスルフィドの生成が確認された。反応機構に関する知見はまだ得られていないが、カルボジホスホランの0価炭素は金属に配位してもなお強い塩基性を有しており、この炭素原子がCE2を攻撃し、その後硫黄原子がホスフィンに転位して反応が進行しているものと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
不飽和炭化水素を基質としたピンサー型カルボジホスホラン-白金(II)触媒によるヒドロシリル化反応を検討しており、この錯体がアルキンならびにアルケンに対する触媒能を有することが明らかとなった。その反応機構として白金とカルボジホスホラン0価炭素との間での協働的Si-H結合活性化機構が強く示唆され、この反応はカルボジホスホラン錯体の特異的な基質活性化反応として幅広い応用が期待できる。しかし現時点では活性化機構を支持する確証が得られておらず、今後計算化学なども含めた詳細な検討が必要である。また、現在注目しているピンサー型カルボジホスホラン-白金(II)錯体の反応場は、白金平面内のピンサー型骨格の立体的制約によって、大きな置換基を有する基質の取り込みが難しいことが示唆された。このことは反応の適用範囲を狭めることにつながる一方、基質選択性や生成物の立体を制御する鍵となる可能性があり、この特性を踏まえてさらなる反応開発が必要である。 上記白金錯体とE=C=E (E = O, S)との反応は現在研究の初期段階であり、生成物の同定や反応条件の最適化など、引き続き基礎的な知見を集める必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
カルボジホスホラン錯体を触媒とした不活性結合活性化反応に関連し、1,アルケンのヒドロシリル化の適用範囲をより詳細に検討し、アルキンのヒドロシリル化とともにヒドロシリル化反応全般について総括する。2、Si-H以外の結合活性化(例えばB-Hなど)を開発する。3,アルケン、アルキン以外の有機多重結合性化合物へのヒドロシリル化を含めたヒドロエレメント化について検討する。4,特にSi-H結合活性化反応の反応機構に関して、計算化学を交えてより詳細に検討する。 カルボジホスホラン錯体とE=C=E (E = O, S)との反応に関連して、1,反応条件や酸化(硫化)生成物の検出、反応追跡による中間体の検出などを通してE=C=E還元反応をより詳細に検討し、反応機構の提案を行う。2,これを踏まえて、他の不飽和有機典型元素化合物の(多重)結合活性化への応用を検討する。3,これらの活性化反応を触媒サイクルに組み込んだカルボジホスホラン錯体の新たな触媒反応を開発する。
|