2020 Fiscal Year Research-status Report
二酸化チタンを両極に用いた分子性光電気化学セルによるノンバイアス太陽光水分解
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19K05502
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小澤 弘宜 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30572804)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 太陽光水分解 / 錯体触媒 / 錯体色素 / TiO2 / 光電気化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、ノンバイアスでの光化学的な水の完全分解を駆動する分子性光電気化学セルの開発に向けた第一歩として、電気化学的な水の完全分解(水を2:1のモル比で水素と酸素に分解する反応)を駆動する分子性電気化学セルの開発に取り組んだ。白金ポルフィリン水素生成触媒を修飾したTiO2電極(FTO/TiO2/PtP-py電極)をアノード、コバルトポルフィリン酸素生成触媒を修飾したTiO2電極(FTO/TiO2/CoP-py電極)をカソードとして用いた分子性電気化学セルにおいて、両極間に2.2 Vの電圧を印加すると、水の完全分解が効率良く進行し、そのファラデー効率は非常に高いことが明らかとなった。本分子性電気化学セルは、分子性触媒修飾電極を用いて水の完全分解に成功した初めて例であり、本研究課題の目的達成に向けた重要な成果となっている。 今年度は、水からの光化学的酸素生成触媒機能を示す酸素生成フォトアノードの開発に取り組んだ。酸素生成フォトアノードに用いる各種錯体色素、および錯体触媒の合成を行い、これらを共吸着させたTiO2電極(酸素生成フォトアノード)の作製を試みた。様々な吸着方法を検討した結果、錯体色素と錯体触媒をTiO2電極に逐次的に吸着させることによって、酸素生成フォトアノードを作製できることが明らかとなった。作製した酸素生成フォトアノードの電気化学特性を詳細に検討したところ、期待通り、可視光照射下において水からの酸素生成触媒反応を駆動可能であることが明らかとなった。今年度は、COVID-19による数ヶ月間の大学閉鎖の影響によって、本酸素生成フォトアノードを用いた分子性光電気化学セルによる水の完全分解反応に関する検討を行なうことはできなかったが、本研究課題の目的達成に向けて重要な成果をあげることが出来たと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、ノンバイアスでの光化学的な水の完全分解を駆動する分子性光電気化学セルの開発を目的としている。昨年度は、電気化学的な水の完全分解(水を2:1のモル比で水素と酸素に分解する反応)を駆動する分子性電気化学セルの開発に取り組み、初めてこれに成功した。今年度は、光化学的な水の完全分解の達成に向けて、水からの光化学的酸素生成触媒機能を示す酸素生成フォトアノードの開発に取り組んだ。酸素生成フォトアノードの開発には、色素分子と酸素生成触媒分子の両機能性分子が必要不可欠であることから、これらの合成を行った。色素分子としては、ピリジン環をアンカー基として有する各種ポリピリジルルテニウム錯体、酸素生成触媒分子としては、同じくピリジン環をアンカー基として有する各種Ru(bda)型錯体触媒(bda = 2,2’-bipyridine-4,4’-dicarboxylic acid)の合成と機能評価を行った。 一方、合成したポリピリジルルテニウム錯体色素およびRu(bda)型錯体触媒の両機能性分子を修飾したTiO2電極(酸素生成フォトアノード)の作製方法についても検討を行った。様々な修飾方法を検討した結果、始めに錯体色素をTiO2電極に固定化し、その後錯体触媒の固定化を行うことによって、両機能性分子を修飾した酸素生成フォトアノードを作製することに成功した。作製した酸素生成フォトアノードの電気化学特性を詳細に検討したところ、可視光照射下において水からの酸素生成触媒反応を駆動可能であることが明らかとなった。今後は、本酸素生成フォトアノードを用いた分子性光電気化学セルによる水の完全分解反応に関する検討を行なうことによって、本研究課題の目的達成を目指す計画である。 以上の通り、本研究課題の進捗状況は順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度開発に成功した酸素生成フォトアノードは、光電気化学的な水からの酸素生成触媒反応を駆動できるものの、光触媒反応の効率は非常に低いと考えられる。触媒反応効率が低い主な理由の一つは、TiO2伝導帯から酸素生成触媒分子への逆電子移動であると考えられる。酸素生成フォトアノードに可視光照射を行うと、可視光吸収によって励起状態となった色素分子からTiO2伝導帯への電子移動が起こり、色素分子は一電子酸化状態となる。一電子酸化状態となった複数の色素分子が酸素生成触媒を逐次的に酸化することによって、水からの酸素生成触媒反応が進行する。この触媒反応過程においては、TiO2伝導帯に注入された励起電子による酸素生成触媒の還元反応(逆電子移動)は触媒反応効率を著しく低下させてしまうことが知られている。 そこで次年度は、TiO2伝導帯から酸素生成触媒分子への逆電子移動を効果的に抑制することを目的として、スペーサー導入型Ru(bda)型酸素生成触媒の開発に取り組む計画である。TiO2電極へのアンカー基であるピリジン環と触媒反応サイトであるRu(bda)部位との間にアルキル鎖あるいはフェニル基などの核種スペーサーを導入し、TiO2電極とRu(bda)部位を空間的に引き離すことによって、TiO2伝導帯から酸素生成触媒分子への逆電子移動の進行を効果的に抑制することができると期待される。様々な構造のスペーサーの中から逆電子移動の抑制に最も効果的なスペーサー構造を見い出し、酸素生成フォトアノードの触媒反応効率を飛躍的に向上させたいと考えている。この取り組みによって、最終年度中にノンバイアスでの光化学的な水の完全分解を駆動する分子性光電気化学セルの開発に成功したいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度はCOVID-19によって大学が数ヶ月間の閉鎖状態となり、その期間は研究室での実験や測定を行うことが出来なかった。また、閉鎖終了後も研究室での滞在時間短縮が強く求められたため、物品費の消費もやや少ない状況がしばらく続いた。さらに、今年度に参加を予定していた学会は全てが中止、あるいはオンライン開催となったため、旅費の支出も無くなった。以上の理由によって次年度使用額が生じた。 次年度に繰り越した未使用の研究費は、主に消耗品の購入に充てる計画である。また、次年度も旅費の支出が無くなる可能性があると考えられるため、その際は主に消耗品の購入費用に充てる計画である。
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Research Products
(4 results)