2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K05512
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
川本 達也 神奈川大学, 理学部, 教授 (20204787)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銅多核錯体 / 水素生成触媒 / 混合配位子錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画に従い、銅-硫黄クラスターの合成例を増やすことから研究をスタートした。その結果、まず、側鎖フェニル基の3,5位に塩素原子を導入した場合には、合成条件により、3種類の錯体の生成を明らかにすることができた。ひとつは硫黄架橋環状八核錯体の+1価種であり、残りの2つはそれぞれ、溶媒に対する溶解性が極めて小さい錯体と類似する環状多核錯体ではこれまで観測されたことのない吸収スペクトルを示す錯体であった。これらは六核錯体の形成が明らかにされている3,5位にメチル基を有する場合とは異なっており、各錯体の構造に興味が持たれる。次に、2,4位に塩素原子を導入した錯体を合成した。その結果、硫黄架橋環状八核錯体の+1価種の生成を確認することができた。関連する2,4位にメチル基を有する場合には六核および八核の2種類の錯体の形成が明らかにされており、さらなる合成条件の検討が必要であると考えられる。一方、環状八核錯体は八核骨格を有するにもかかわらず、電気化学的測定において2つの酸化還元波しか示さない。これはかねてからの疑問点のひとつであり、その原因を明らかにするため、混合配位子錯体の合成を試みた。2種類の配位子を最初に混合してから錯体合成を行ったり、配位子の異なる2種類の錯体を混合することで合成を試みたところ、全く構造の異なる多核錯体の形成は認められたが、その詳細を決定するまでには至らず、目的とする混合配位子錯体を得ることはできなかった。しかし、錯体溶液の上にその錯体の配位子とは異なる配位子の溶液を乗せることによる液-液拡散法にて目的とする混合配位子錯体の合成に成功した。X線結晶解析におけるディスオーダーが激しく、配位子の混合比まで明らかにすることができなかったため、今後は混合する配位子を工夫することで混合比を明らかにするとともに、得られた錯体の酸化還元挙動についても検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画では銅-硫黄クラスターの合成例を増やすことに成功している予定であった。実際に、目標に近づいてはいるが、成功とまでは言い切れないため「やや遅れている。」とした。その原因としては、構造を決定するために必要なX線結晶解析に適当な単結晶の生成ができていないこと、および、単結晶が得られてもX線結晶解析上のディスオーダー等の問題により構造を最終的に決定できていないことなどが挙げられる。しかしながら、これらは当初から予期されていたことでもあり、今後は質量分析などX線結晶解析以外の分析機器を駆使することで錯体の基本構造を明らかにし、次の段階へと研究を進展させる予定である。一方、混合配位子錯体の形成が確認できたことは研究の幅を広げる上で大きな成果と考えている。単一の配位子からなる対称性の高い錯体と2種類の配位子を混合することで対称性を下げた錯体を比較検討することは、異常な酸化還元挙動を示す銅-硫黄クラスターの本質の解明につながるだけでなく、より一般的な学術的意義をもつと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、銅-硫黄クラスターの合成例を増やす研究を継続して行う。そして、X線結晶解析により構造を決定するとともに、その他の分析手段を駆使して基本構造を明らかにする。それと並行して、すでに合成条件が確立されている銅-硫黄クラスターについて可視光を利用した水素生成における触媒作用を明らかにする。この2つの研究を柱として銅-硫黄クラスターの構造と触媒作用の関係を見出す。さらに、合成した錯体の電気化学的測定や分子軌道計算を行うことで核数の異なる各種銅-硫黄クラスターの電子状態についても検討する。これらの成果に基づいて、銅-硫黄クラスターの核数および電子状態を制御する選択的合成条件を確立するとともに、錯体触媒の電子状態と触媒作用の関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
機器の金額が当初の見積額より安価だったために次年度使用額が生じた。薬品などの消耗品に使用する予定である。
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[Journal Article] Photooxidation Reactions of Cyclometalated Palladium(II) and Platinum(II) Complexes2019
Author(s)
Yasuda, Jun; Inoue, Keisuke; Mizuno, Koichi; Arai, Shiho; Uehara, Koushi; Kikuchi, Asumi; Yan, Yin-Nan; Yamanishi, Katsunori; Kataoka, Yusuke; Kato, Mai; Kawai, Akio; Kawamoto, Tatsuya
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Journal Title
Inorganic Chemistry
Volume: 58
Pages: 15720-15725
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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