2020 Fiscal Year Research-status Report
プロトン核磁気横緩和時間測定を用いる可塑剤の新規動的・物性評価法の開発
Project/Area Number |
19K05533
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
森内 隆代 (川上隆代) 大阪工業大学, 工学部, 教授 (60288751)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 吉伸 大阪工業大学, 工学部, 教授 (70298800)
藤森 啓一 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (70319573)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 1H核磁気横緩和時間 / パルスNMR分光計測法 / パルスシークエンス / PVC可塑化 / 電極膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
1H核磁気緩和現象の横緩和時間に着目したパルスNMR分光計測法は、成形・調整することなく使用できる非破壊検査法でありかつ経時変化も含めて容易に観測できることや、固体や液体あるいはゲルや混合状態といったどのような形状の複合材料でもそのまま測定可能というこれからの新しい物性評価法に望まれる資質を有している上、分子運動性に対応する成分の測定が可能という他の評価法に例を見ない非常に特徴的な物性評価法としての開発が期待できる。本研究の目的は、横緩和時間T2測定の測定手法や数値処理法の新たな開拓に注力し、社会的ニーズの高い塩ビ材料中の可塑剤の分子運動性と相関のある物性変化を鋭敏に観測できる新規物性評価法の確立である。令和2年度は、臨床分野で汎用されている血中Na+イオン用イオン選択性電極のPVC感応膜をターゲットとし、重合度の異なるPVC剤や異なる製膜溶媒を用いてPVC感応膜を作製し、パルスNMR分光計測法による物性評価法のみならず電位差測定法を行って実際の電極性能の評価も目指した。 本研究では、重合度の異なるPVC剤を用いたbis(12-crown-4)イオノフォアとするNa+イオン用イオン選択性電極の感応膜ならびに製膜時に用いる溶媒を変えて作製したbis(12-crown-4)イオノフォアとするNa+イオン用イオン選択性電極の感応膜をそれぞれ、Solid Echo・Hahn Echo・CPMGの3つのパルスシークエンスを駆使し、横緩和時間を測定した。そして、Solid EchoとCPMGのパルスシークエンスによるFIDシグナルを直接数値微分して緩和スペクトルとすることで物性変化を視覚化し、また、Hahn EchoのパルスシークエンスのFIDシグナルを成分解析して内在成分の横緩和時間を求めることで物性変化を数値化した。さらに、これらのイオン選択性電極の電位応答性とイオン識別能を電位差測定により評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1H核磁気緩和現象の横緩和時間T2測定は、細かく砕いたり測定用に成形することなく使用できる非破壊法であり かつ 経時変化も含めて容易に観測できるということと、単一成分に限らず固体や液体あるいはゲルや混合状態といったどのような形状の複合材料でも適用可能ということが、他の評価法に例を見ない非常に優れた点である。しかし、これまで物性評価法として発展・汎用されなかった理由として、まず、i) 得られるFIDシグナルの単純さ、ii) Weibull関数をフィットさせる数値解析処理、iii) 得られた1H核磁気緩和時間(数値)の定義付けの3点が挙げられる。本研究では、研究期間内に、これらの欠点を克服し、さらに、パルスシークエンスを駆使した新たな観点での横緩和時間測定法を詳細に検討する計画である。 令和2年度は、令和元年度に引き続き臨床分野で日々多用されている血中Na+イオン用イオン選択性電極のPVC感応膜をターゲットとして選定し、パルスNMR分光計測法の改善に取り組むと同時に、令和元年度に達成できていなかったiii)についての知見を得るため、血中Na+イオン用イオン選択性電極のPVC感応膜を様々な条件を変えて作製し検討した。これらの結果は、英国化学会の学会誌Analystにhighlight cover論文として発表された(2020年6月7日)。また日本分析化学会の学会誌Bunseki Kagakuにも論文発表された(2021年3月5日)。また国内学会において4件の発表をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
塩ビ製品からの可塑剤の滲み出し・揮発・他物質への移行は、可塑剤の低分子量,低相溶性(混和性),量超過などで見受けられるが、製品中の相溶性・滲み出しを事前に評価する方法は未だ確立されていない。社会的ニーズから簡便な物性評価法の確立は不可欠である。令和元年度・令和2年度は臨床分野で日々多用されている血中Na+イオン用イオン選択性電極のPVC感応膜をターゲットとして異なる重合度や含量の違うPVC材そして使用溶媒の検討を行って来たが、欧州では塩ビ製品の汎用性可塑剤がRoHS2規制対象となっていることもあり、これらで得られた成果を基に物性評価法の確立を目指すべく進める。具体的には、横緩和時間の測定に用いられるパルスシークエンスの中でも Solid Echo法, Hahn Echo法, CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)法を駆使した測定手法の開発を目指す予定である。パルスシークエンスは通常 メインとなる分子運動性成分の緩和時間領域によって選定しているが、本研究では観測しようとする物性変化の測定に適しているかどうかを検討する予定である。このような観点でパルスシークエンスを研究した報告例は未だないため、どのように測定すれば物性評価に用いることができるデータが得られるのかについても詳細に調べるつもりである。異なるパルスシークエンスを使い分けることで横緩和時間測定から様々な物性変化の検出が可能となり、パルスNMR法を用いる新たな物質材料の物性評価が期待できると考えている。
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Causes of Carryover |
研究成果をAnalyst(英国化学会)の表紙論文としてオープンアクセス掲載することになったことに伴う予定外の支出があった上に、研究上必要となった購入希望物品が残金では購入できなかったことから、次年度の予算と合算して次年度に購入することにした。
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