2021 Fiscal Year Research-status Report
自発的相分離による有機イオン会合体相抽出/環境計測法の開発とオンサイト分析
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19K05561
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
波多 宣子 富山大学, 理学部, 客員准教授 (90134999)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐澤 和人 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (80727016)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機イオン会合体相 / アンモニア性窒素 / 亜硝酸 / 多環芳香族炭化水素 / リチウム / ニッケル / エストロゲン / 環境水 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機イオン会合体相(IAP)抽出法の開発に関する基礎研究を行った。pHの調整が不要で,広いpH範囲で使用できる有機イオン会合体相の構成成分の組み合わせとして有機陽イオン:ベンゼトニウムイオン(Ben+)と有機陰イオン:エチルベンゼンスルホン酸イオン(EBS-)を見いだした。このBen+とEBS-からなる有機イオン会合体相あるいはその水相のBen+とEBS-の割合を分光光度計により測定した。また,ナトリウムイオンや塩化物イオンの割合をイオンクロマトグラフィーにより測定した。解析においてはBen+とEBS-の吸収スペクトルは相互作用していない,即ち,加成性が成り立つものとした。Ben+は有機イオン会合体相生成に消費され,水相中に残っていなかった。 ニッケルを有機イオン会合体相抽出する際に用いたベンジルドデシルジメチルアンモニウムイオン(C12BzDMA+)とテノイルトリフルオロアセトネートイオン(TTA-)およびフェノールスルホン酸イオン(PS-)からなる有機イオン会合体相の紫外吸収スペクトルを測定することにより,各成分の濃度を求めた。その結果,TTA-とPS-の濃度はほぼ等しく大体1 Mであった。逆抽出操作として,イオン会合体相に硝酸を加えて振り混ぜると,イオン会合体相中のTTA-はPS-の濃度の数分の1になった。これは,酸性にすることにより,PS-に比べ,テノイルトリフルオロアセトン(HTTA)の解離が抑えられ,C12BzDMA+とイオン会合体を形成することができなくなり,HTTAが水中に溶出したためであると考えられる。 抽出法の開発と環境分析への応用として,ニッケルの有機イオン会合体相抽出/逆抽出による濃縮/黒鉛炉原子吸光光度定量法を開発し,富山県内の河川水・富山湾海水に応用した。その結果,数十~数百 ng/Lレベルのニッケルを定量することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は9月初旬に第38回分析化学中部夏期セミナーにおいて「自発的相分離を利用した環境水中のニッケル, 銅 , 鉄の濃縮 吸光光度定量」,9月中旬に日本分析化学会第68年会において「自発的に水相から分離する有機イオン会合体相への抽出を利用する雨水中のホルムアルデヒドの濃縮/吸光光度定量」,11月に第50回中部化学関係学協会支部連合秋季大会において「有機イオン会合体の自発的相分離を利用する亜硝酸イオン濃縮/吸光光度定量法の開発と海水への応用」を,口頭あるいはポスター発表した。2020年度は5月に日本分析化学会第80回分析化学討論会において「海水から汽水・淡水まで広い塩分濃度に対応したアンモニア性窒素の吸光光度定量法の開発と有機イオン会合体相抽出への応用」について発表した。2021年度は,オンサイト分析に関する学会発表をオンラインで4件口頭あるいはポスター発表した。 2020年5月にAnalytical Sciences 誌(査読付き,フリーアクセス)に「有機イオン会合相抽出/逆マイクロ抽出によるリチウムの前濃縮と定量- 2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオンを用いた液体電極プラズマ原子発光分光分析(LEP-AES)と黒鉛炉原子吸光分析(GF-AAS)による環境水中のリチウムの定量」が,Original Paperとして掲載された。2021年12月にAppliedChem 誌(査読付き,オープンアクセス)に「有機イオン会合相マイクロ抽出/逆マイクロ抽出による前濃縮-黒鉛炉原子吸光分析GF-AASによる2-テノイルトリフルオロアセトンを用いた環境水中ニッケルの定量」が,Original Paperとして掲載された。 これまで(令和元年~3年度),査読付き論文4件(うち有機イオン会合体相抽出2件,環境計測関連2件),学会発表を8件口頭あるいはポスター発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
亜硝酸など吸光光度定量が可能な環境水中の微量目的成分に対し,自発的相分離を利用する有機イオン会合体相抽出/吸光光度定量による環境計測法の開発とオンサイト分析に関する研究をまとめ,不足するデータを補いつつジャーナルに論文を投稿する。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や黒鉛炉原子吸光光度計を用いて測定する必要がある場合には,オンサイト分析が困難なので,濃縮から測定まで実験室で行い,環境水中の微量目的成分の分離・濃縮に,“有機イオン会合体相(IAP)抽出法”を適用して環境計測法の開発についての研究をまとめる。査読付きジャーナルに論文を投稿する予定なので,査読の結果によっては,必要な追加実験を行う。ビスフェノールやエストロゲンの自発的相分離による有機イオン会合体相抽出/HPLC(/蛍光・電気化学)検出法の開発に関する研究をまとめ,不足するデータを補いつつジャーナルに論文を投稿する。微量目的成分として,アンモニア性窒素や多環芳香族炭化水素類(PAHs),重金属イオンについて,有機イオン会合体相抽出を行い,環境水に応用する。 有機陽イオンとしてエチルヘキシルオキシプロピルアンモニウムイオン,ゼフィラミンイオンやベンゼトニウムイオンなど,有機陰イオンとしてドデシル硫酸イオン,エチルベンゼンスルホン酸イオンやトルエンスルホン酸イオン,フェノールスルホン酸イオン,チモール陰イオンなどについて添加量を変えて,有機イオン会合体相が生成する領域や抽出するための最適な条件について検討する。次に,環境水中の微量成分の自発的相分離を利用する有機イオン会合体相抽出法を開発し,環境分析に応用する。 これらの成果を学会での発表を検討する。ジャーナルに投稿するために,データを整理し,原稿をまとめる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により,参加を検討していた国際会議(ハワイ)が延期その後Virtual形式で開催となった。また,参加登録済みの学会(札幌)の現地開催が中止になった。その後の学会は多くがオンライン開催(もしくは中止,延期)になった。 国際会議の参加登録費,外国出張旅費,国内学会の旅費として,100万円余り計上していたが,学会で成果を発表するための旅費などに使用することができなくなった。2020年度ばかりでなく,2021年度も旅費の使用がなくなり,次年度使用が生じた。また,これまで投稿した論文のうち, Analytical Sciences誌は,投稿当時,フリーアクセス誌にもかかわらず,掲載料不要であり,AppliedChem誌は,オープンアクセス誌であるが,掲載料(Article processing charge,APC)が免除されたため,掲載料が必要なかった。 学会の開催案内の注意書きに「Covid-19の影響により,開催方式を変更する場合は・・・」と常に記載され,対面なのかオンラインなのか,申込時に判断できないことから,学会での発表申し込みを躊躇している。 今後は,主に「消耗品」や,論文を英語で投稿するための「英文校正費」に使用する予定である。また,掲載料が不要なところに投稿する予定であるが,場合によっては,オープンアクセス化のための掲載料(APC)に使用する。
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Research Products
(5 results)