2020 Fiscal Year Research-status Report
パラジウム錯形成に駆動される自己組織化パラジウムナノ構造固体触媒の開発
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19K05571
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
貝掛 勝也 神奈川大学, 公私立大学の部局等, 教務技術職員 (20437940)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 仁華 神奈川大学, 工学部, 教授 (60271136)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | テオフィリン / パラジウム / 自己組織化ナノ構造触媒 / 鈴木-宮浦カップリング反応 / 不死化 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度研究により、2分子のテオフィリンを長さの異なるアルキル鎖でつないだ配位分子を10種類合成し、これらの配位分子と塩化パラジウムを自己組織化させた錯体を作成し、鈴木宮浦カップリング反応のパラジウム触媒として用いたところ、全ての触媒において高い転化率でカップリング反応の触媒として利用できることを報告した。本年度は、その中でも触媒の形状が粒子状で粒径も均一にそろった、単素数7のアルキル鎖(ヘプチル鎖)でテオフィリンをつないだ配位分子からなる触媒を代表として触媒性能の詳細を検討した。 鈴木-宮浦カップリング反応の触媒評価は、フェニルボロン酸とブロモベンゼンを用いたビフェニル合成をモデル反応として、触媒量、反応時間、反応温度、溶媒、アルカリ触媒種、反応雰囲気を検討し、成果1として最適条件を導き出した。この合成条件をもとにブロモベンゼンに変えて、置換基位置の異なる27種類の各種アリルハライド試薬を用いたカップリング反応を行い、本触媒が得意とする反応基質の特徴を探ることができた(成果2)。最大の成果は、触媒リサイクル実験において、高いリサイクル性能を示した要因について、触媒の構造が大きく関与していることを見出したことである。触媒の構造を維持できれば、永久的に触媒をリサイクルし続けられるという仮説をたて、反応後の触媒を詳細に分析することで、アニオンの存在が触媒の構造維持および触媒サイクル効率化の観点から重要であることを突き止めた。この結果を受けて、アニオン存在下でリサイクル実験を行ったところ、アニオンが存在しない場合に比べ触媒の耐久性が二倍以上に向上した。つまり、触媒の構造体(形)を維持することが触媒の失活を防ぐ重要な要因であるという見解を提唱できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度末に計画した今後の研究の推進方策において、(1)カップリング反応の最適合成条件を決定すること、ならびに、(2)官能基の異なる種々の反応基質を用いた合成により、触媒としての特異性や選択性等の特徴を明らかにすること、(3)触媒の繰り返し利用回数を大幅に伸ばすような利用形態を展開することを目標に掲げた。本研究の進捗は、これら3点の目的を達成することができたことから、概ね順調に研究が進展している。さらに、(3)の繰り返し利用を可能にする要因について考察ができたことから、当初の計画以上に進展していると評価した。 本触媒は不溶性の不均一系固体触媒に属し、触媒を回収し繰り返し利用できることが最大の特徴であり10回もの繰り返し利用が可能であった。しかしながら、繰り返しカップリング反応に供することで、終盤には触媒が失活しており、この失活した触媒に着目し、S E MやT E M、X P S分析を行うことで、触媒構造や化学種の詳細を明らかにした。触媒のパラジウムは反応中にゼロ価のパラジウムに還元され、目的物質を生成すると次のサイクルではII価のパラジウムに酸化される。このゼロ価とII価の状態を繰り返すことで目的物質を作り続ける触媒として機能するが、繰り返し利用され続けることで、ゼロ価になったパラジウムはナノ粒子のパラジウム金属が互いに凝集することで融着しパラジムの塊となり、II価のパラジウムに戻れなくなることが触媒失活の理由であることを突き止めた。その段階で失われている成分があることを確認できたことから、この成分を補うことでゼロ価のパラジウム粒子の凝集化を防ぐことができると着想し、成分を添加した繰り返し実験を実施した。その結果、繰り返し回数は無添加系の倍の20回を達成し、繰り返し利用しても触媒形状はほとんど崩壊せず凝集化も起こらず、触媒の不死化を確認するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究進捗が、パラジウム錯形成に駆動される自己組織化パラジウムナノ構造固体触媒の特徴と、その不死化の要因究明に至ったことから、最終年度となる2021年度は、工業的展開も視野に、本触媒をリアクター内に固定化し、濾過分離工程を必要とせず、反応溶液の仕込みと回収が容易な、ハンドリングに優れたリアクター開発を目標とする。高価なパラジウム触媒であっても、触媒の利用回数が増えれば触媒単価を下げられることから、資源の有効利用が見込まれる。触媒リサイクル実験では、不死化した触媒で20回の繰り返し実験が実施できたものの、濾過により触媒を繰り返し回収することで、触媒がフィルターに少量ずつ付着し、繰り返すごとに触媒回収量が徐々に減少したため、それ以上の繰り返し実験に及ばなかった。回収ロスがなければ、繰返し回数をさらに伸ばすことが可能であると想定している。加えて、濾過分離工程を経ない合成は工業化を見据える上で重要な発展課題であると位置付けており、作業性の向上も図ることを目的とした触媒のリアクター化を計画する。 リアクターは、まず触媒の固定化方法としてカラム充填による固定化を計画し、充填に最適なカラム管を設計作成する。触媒を充填したカラム管をチューブでつなぎ、チューブポンプで反応溶液を送液することでカップリング反応を進行させ、反応後の溶液を回収する。反応液の注入と回収は本装置を解体することなく連続して行えるような注入排出装置を設計装備することで作業性を向上させる。生成物は室温で結晶状態であることから、反応中に系内での反応液の閉塞を防ぐ観点から、本装置は加温できるジャケット構造とする。このような本リアクターを用いて、触媒性能の評価はブロモベンゼンとフェニルボロン酸を用いたビフェニル合成により評価する。
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Causes of Carryover |
2020年12月に開催予定の国際学会Pacifichem2020に参加予定であったが、コロナウイルス感染症防止対策のため、当該国際学会が1年延期となったため、参加に関わる予定額を繰り越した。使用計画は国際学会が開催されれば参加する計画であるが、2021年度に社会情勢や予防の観点から参加が困難な状況である場合は、実験試薬および論文投稿費用として充填する計画である。
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Research Products
(2 results)