2020 Fiscal Year Research-status Report
有機セレン化合物の特異な機能と結合特性を活用した次世代高分子材料の創成
Project/Area Number |
19K05577
|
Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
森 秀晴 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (00262600)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | セレン / ラジカル重合 / 高屈折率材料 / 光学材料 / 精密重合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、セレン化合物を基本骨格(キーマテリアル)として取り上げ、「セレンを基盤とした精密重合とナノマテリアルとの融合領域の開拓」を試みた。セレンは炭素と同程度の電気陰性度をもち、さらに硫黄に比べて原子半径が大きく分極率が高い事から、ローレンツ・ローレンツの式において原子屈折が大きくなり高屈折率化が期待できる。本年度はラジカル共重合を用いて新規セレン含有高屈折ポリマーの創成を目指した。具体的には芳香族セレノフェンを側鎖に有するポリビニルセレノフェンの合成を行い、さらに多様な汎用モノマーとの共重合体を合成した。いずれの場合も有機溶媒に良好な溶解性を示し薄膜形成が可能であった。分光エリプソメーターにより薄膜の屈折率、アッベ数を測定すると共に光学特性、熱的特性を評価した。その結果、ビニルセレノフェンの単独重合体が比較的高い屈折率と高い透過性を示し、その共重合体はセレノフェン含有量により屈折率とアッベ数の制御が可能であることを明らかにした。いずれのポリマーにおいても高い熱安定性が得られたがマレイミドとの共重合において特に高い熱安定性と高いガラス転移温度を示した。さらに側鎖にビニル基を有するセレン含有共重合体のチオールーエン反応による光架橋硬化フィルムの作製にも成功した。また、高い透明性が期待できる(メタ)アクリレート型のセレン含有ポリマー、並びにメチルメタクリレートとの共重合体を合成し高屈折率と透明性と併せ持つ光学ポリマーの開拓に向けた検討を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、有機セレン化合物を基本骨格(キーマテリアル)として取り上げ、その特異な機能(半導体、光伝導性、高屈折率)と結合特性(動的共有結合、構造の多様性、高反応性・高感受性)を精密重合及び高分子ナノ構造体の構築に関する技術と融合させ次世代高分子材料を創成する事を目的とした。本年度は側鎖にセレノフェンを有する2-ビニルセレノフェンおよびセレンを側鎖に有する3種類の(メタ)アクリレート誘導体の共重合により高屈折・高透明性を有するセレン含有ポリマー群を開発した。特に、光学材料として必須となる透明性や熱特性を損なうことなく屈折率向上とアッベ数の制御を実現する技術を開拓した。これらの結果から高屈折率材料としてのセレン含有ポリマーの有用性・可能性を実証した。いずれも、セレン化合物特有の機能・性能を巧みに操ることで、基本骨格としてのセレン化合物の可能性を最大限に追求した機能性高分子の材料設計指針を確立するものであり、おおむね順調に展開していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
合成した (メタ)アクリレート型セレン含有ポリマー及びその共重合体の屈折率・アッベ数及び透明性等の諸特性を評価し光学材料としての有用性を追及する。このセレンを有機ガラス(アクリルガラス)として知られているポリメチルメタクリレートの分子骨格に組み込むことで、高屈折率、高アッベ数を示し、凝集が起こらない光学用途に適した材料の開発を目指す。一方で、セレニド(R-Se-R)を含む新たな新規セレン含有ビニルモノマー類の設計と精密合成手法の確立を目指す。セレニド含有ポリマーの高反応性を利用して、セレノ二ウム塩(R’RR-Se+-X-)などへ変換することでポリマーの溶解性、特に水溶性を獲得し新しいカチオン性ポリマーの創製とその応用が期待できる。また、セレニド含有ポリマーをセレノイド(R-Se(=O)-R)やセレノン(R-SeO2-R)へ変換することで電子的な特性を変化させドナー・アクセプターなどの電子機能団としての応用を目指す。さらに、セレン化合物由来の動的共有結合を利用した自己修復高分子材料や刺激応答性材料の創成に展開する。
|
Causes of Carryover |
モノマー合成及び重合挙動解析が比較的順調に進み屈折率やアッベ数などの評価を重点的に進めたため、各種試薬・溶媒類、ガラス器具類の購入が予定より少なかった。また、学会等が開催中止となり旅費等も発生したかったため次年度使用額が生じた。次年度は新規モノマー・ポリマー合成や高分子反応用の各種試薬・溶媒類、ガラス器具類の購入が必要となる。さらには、生成ポリマーの特性評価や高次構造体解析用の試薬類や消耗品の購入が必要となる。
|