2020 Fiscal Year Research-status Report
高分子パラクリスタルで形成される分子鎖間水素結合の可視化の検討
Project/Area Number |
19K05581
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐々木 園 京都工芸繊維大学, 繊維学系, 教授 (40304745)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高分子結晶 / 電子密度分布マップ / 大エントロピー法(MEM) / 放射光粉末X線回折データ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、高分子(ポリマー)のための精密結晶構造解析法として、粉末X線回折データと最大エントロピー法(MEM)を組み合わせた電子密度分布解析法を確立することである。主鎖を構成する元素の電子密度分布の広がりや偏りを数値化することにより、高分子の結晶格子(パラクリスタル格子)の特徴やそこに充填される分子鎖の螺旋構造の詳細を議論できる可能性がある。 2020年度は、2019年度に高密度ポリエチレン(HDPE)で確立した実験・データ解析法を他の線状高分子に応用できるか検討した。試料としてナイロン6を用い、ギ酸希薄溶液から単結晶を調製する方法で粉末試料(非晶を含む)を調製した。得られた粉末試料をキャピラリーに充填して、大型放射光施設SPring-8の構造生物学研究理研ビームラインⅡ (BL44B2、Debye-Scherrer camera搭載)を利用して粉末線回折測定を行った。ナイロン6の粉末回折強度プロファイルからバックグラウンドと非晶由来の散乱成分を差し引き、結晶由来のブラッグ反射に対して指数付けを行った後に、それらの強度をαとγ型の結晶多型由来の反射成分に分割した。834個のhkl反射の観測強度を用い、既知のα型結晶構造モデル[Holmes, D. R., Bunn, et al., Polym. Chem., 17(84), 159-177 (1955).]を初期モデルとして結晶構造の精密化を行った結果、R-factorが5.94 %の最適解を得た。hkl反射の観測構造因子と精密化後の構造モデルに対して求めた計算結晶構造因子とその位相角を用いてMEM解析を行なった。その結果、収束解としてR-factorが10.46 %のα型結晶構造の電子密度分布イメージを得ることに成功した。今後α型結晶構造における隣接分子鎖間の水素結合や分子鎖の規則配列の局所的な乱れについて検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
粉末X線回折データとMEMにより、HDPEに続いてナイロン6の結晶構造の電子密度分布の3次元マッピングに成功した。本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本年度に引き続き、他の結晶性線状高分子を用いてMEM解析による結晶構造の可視化を試みる。それらの結果に基づき、高分子の精密結晶構造解析法として、本研究で確立する実験・データ解析法の妥当性を検討する。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況に大きなは影響はないが、コロナ禍と病気治療のため放射光利用実験が行えなかったこと等の影響により次年度使用額が生じた。
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