2020 Fiscal Year Research-status Report
負の熱膨張メカニズムの構造化学的解明と新規熱膨張制御材料の開発
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19K05652
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
村井 啓一郎 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (60335784)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森賀 俊広 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (90239640)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 焼結助剤 / 相対密度 / 熱郷帳係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
温度上昇に伴い体積が収縮するZr2(WO4)(PO4)2は負の熱膨張材料の中でも広い温度範囲で負の熱膨張を示し,構造内相転移も起こさない特徴を持つため扱いが容易である。前年度に異元素をドープすることでその熱膨張係数を制御できることが分かっている。しかしその相対密度は50%程度と低く,材料として利用するのは困難であるため,相対密度の向上が課題となっている。本研究では,焼結助剤を加えることにより相対密度の向上を試みた。また,焼結助剤の添加量および焼結時間が相対密度および熱膨張係数に及ぼす影響を調査した。本研究では酸化マグネシウムMgOを焼結助剤として用いた。 先行研究により12 h焼結することで単一相が得られることが分かっている。しかし,MgOを添加した後12 h焼結した試料のXRDパターンにおいて,不純物相のピークが観測された。高温または長時間焼結することで目的物質が熱分解していると考えられた。よって上記の熱分解を防ぐために焼結時間の短縮を検討したが,高密度化のためには長い焼結時間が必要であると考えられる。 ディラトメータを用いた熱膨張測定の結果より,25―500°Cの温度範囲で得られた線熱膨張係数は -9.88×10-6 K-1 であった。この値はMgOを添加していない同じドープ量の試料の線熱膨張係数 -11.36×10-6 K-1 と比べて小さい値となった。また,相対密度は焼結助剤の添加により62.8%から89.2%まで向上した。したがって,焼結助剤を添加することで相対密度の向上と同時に負の熱膨張が抑制されると考えられる。 以上、本年度の成果をまとめると,MgOを焼結助剤として添加した際,長時間焼成が必要であるものの,Tiドープ試料においても単一相が得られることが明らかとなった。またMgOの添加により,相対密度は増加し,さらに熱膨張係数の絶対値はゼロに近づき,制御可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初申請段階で予定していた計画をおおむね達成できている。具体的には,その場観察高温X線回折法(in situ HT-XRD)を用いて,室温から500℃まで10℃ごと に測定し,結晶構造解析を行い,格子定数変化を追跡し,体積変化率(熱膨張係数)を見積もった。 ただし試料の相対密度がやや低いため,ディラトメータでの熱膨張測定とin situ HT-XRDでの測定結果に有意な差がでる結果となった。その問題を解決するため,合成の際に焼結助剤を添加する手法を用い,その影響を調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り,現在のところ概ね計画通りに研究は遂行できており,今後も当初の予定に沿って研究を進めていく。ただしリートベルト解析には放射光X線を用いた回折測定のデータを用い,高温での結晶構造精密化を行い,原子位置・熱振動パラメータを求めることを予定していたが,昨今のCOVID-19蔓延の影響で移動の制限がなされている状況であるため,実験室でのXRD測定に予定を変更する。X線強度は劣るものの,測定時間を多くとることでデータの質をカバーしたい。 また予定としては,EXAFS法によるZrおよびWのX線吸収スペクトルを測定し,局所的なZr-O,W-O結合間の原子間距離および相対熱振動パラメータを求め,XRDから得られた熱振動パラメータと併用することで熱振動の異方性を定量化する。熱振動パラメータの温度依存性と格子体積変化(特に稜共有した酸化物イオンが熱振動する空隙体積の変化)との相関を定量化することで,稜共有酸化物イオンの熱振動振幅およびその異方性が負の熱膨張(格子収縮)に及ぼす影響を精査する。ただし現在のところ,コロナ渦において,放射光共同利用を行うかどうかは検討中である。
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