2020 Fiscal Year Research-status Report
幾何フラストレーション磁性体としての銅水酸化物の合成と電場効果
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19K05656
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
藤田 渉 成蹊大学, 理工学部, 教授 (50292719)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銅水酸化物 / 配位高分子錯体 / 結晶育成 / 磁気測定 / 新規物性 / 電圧印加効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は幾何フラストレーションを示す銅水酸化物の合成、構造、新規物性探索と併せて、電圧印加により磁気的性質に大きな変調を示す物質の探索を行った。 1.アルカンスルホン酸イオンを含む塩基性銅塩の結晶育成と構造解析 量子スピン系磁性物質として注目されている銅水酸化物Cux(OH)yzH2O (A =アニオン)の可能性を見極めるに、アルカンスルホン酸イオンをAとして、合計9種類の銅水酸化物を合成し、新規磁気ネットワークを有する磁性物質の探索を試みた。これまでは加温することで、試料の調製する加水分解法を用いて結晶育成を行ってきたが、今回は新しい試みとして、拡散法を用いて試料調製を行った。銅カルボン酸塩とアルカンスルホン酸ナトリウムをH型セルに入れ、室温で数週間放置することで、これまで合成できなかった長鎖アルカンスルホン酸イオンを含むダイヤモンド鎖格子誘導体の合成に成功した。注目すべき成果としては、ノナンスルホン酸イオンを含む誘導体に結晶多形が存在し(α:P21/c、β:C2/c)、β相は低温で反磁性基底状態となり、これまでに報告されているダイヤモンド鎖化合物(低温で常磁性状態または反強磁性状態)とは全く異なる磁気挙動を示した。 2.D-, L-, およびmeso-酒石酸銅の単結晶育成 対称心のない磁性結晶として、酒石酸を配位子とする配位高分子錯体の単結晶育成を試みた。拡散法により、最大で5 mm角程度の結晶を得ることに成功した。結晶を溶液から取り出したところ、結晶溶媒の脱離による表面劣化が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
電圧印加効果の検討がやや遅れている。対称中心のない酒石酸銅などの育成条件を検討し、2 mm角程度の結晶を容易に得られるようになったが、これらの試料は結晶溶媒の脱離による表面の風解という予期せぬことが起こり、結果として電圧印加効果を検討することができなかった。銅水酸化物単結晶においても、電極を貼り付けることが可能なサイズの結晶を得るに至っていない。前年度より、いくつかの試料について、電圧印加効果を実施してきたが、良質かつ大きな結晶を得ることがこの研究のネックとなっている。また、緊急事態宣言発令により、外部研究施設の活用が困難になり、結晶構造解析装置や磁気測定装置のマシンタイム確保に影響が現れたことも研究の遅れの一因である。
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Strategy for Future Research Activity |
最後の年度は、磁性結晶への電圧印加効果は、試料作成にかなりの時間がかかり、また磁気測定装置の長時間使用を要するため、次年度は断念し、新規銅水酸化物や新規配位高分子錯体の合成、物性探索を重点的に実施したい。 現在、磁気測定と低温での結晶構造解析は愛知県岡崎市の分子科学研究所で行っているが、緊急事態宣言発令中、大学の方針により、自由に出張ができないため、磁気測定を行うことが困難な状態である。今後は都内の共同利用施設(電気通信大学、東大物性研など)を利用し、磁気測定を実施したいと考えている。また、自前のX線構造解析装置を修理し、学内で構造解析を行えるよう、研究環境を整える予定である。 最近、ダイヤモンド鎖型磁気ネットワークを有する誘導体β-[Cu3(OH)2(CH3CO2)2(H2O)4](n-C9H19SO3)2 (1β)が、低温で反磁性的な挙動を示すことを発見した。ダイヤモンド鎖型磁気ネットワーク化合物が反磁性状態になるのは極めて珍しいことから、反磁性基底状態の原因を、まず、結晶構造の観点から検討したい。様々な温度で結晶構造解析を行い、ダイヤモンド鎖ネットワークにおける構造変調の有無を検証し、新しい量子力学的現象の発見を目指したい。
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Causes of Carryover |
当初、X線構造解析装置の修理を見越して、今回の予算を申請した。温度可変測定を行うことが困難になっているが、150 K程度であれば、測定可能である。そのため、当年度は修理を見送った経緯がある。次年度、100 K程度で運転する必要があるため、修理の必要が生じることから、本研究を行うにあたり、この予算は必須である。
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