2019 Fiscal Year Research-status Report
バイオポリマーマトリクスを用いた新規ソフト溶液プロセスによるナノ結晶集積体の作製
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19K05660
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
内山 弘章 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (10551319)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バイオミネラリゼーション / 溶液プロセス / セラミック膜 / ナノ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生物を模倣したソフト溶液プロセスによって、バイオミネラル類似の階層的なナノ構造を有するバルク体の作製を目指した。 バイオミネラリゼーションにおいては、“アモルファス相などの準安定相を経由する多段階のプロセス”がナノ構造の形成に重要な役割を果たすことが明らかにされている。2019年度においては、タングステン系酸化物を対象とし、①ナノ構造の形成を促す“中間体”の探索、②中間体からの酸化タングステン薄膜の作製、について検討を行った。 (NH4)10W12O41水溶液を出発原料とし、溶液中での核生成・結晶成長を制御することで、WO3前駆体となる二種類の準安定相WO3・H2Oおよび(NH4)0.33WO3を、単相で、かつ、薄膜として得ることに成功した。これらの前駆体膜は、WO3・H2Oは幅約5.0 μmのプレート状粒子、(NH4)0.33WO3は50 nm以下の微粒子で構成されており、結晶相の制御により微細構造が異なることが分かった。また、いずれの膜も、焼成によってナノ・マイクロ構造を維持したままWO3膜へと変化させることが可能であった。このナノ・マイクロ構造を有するWO3膜の太陽電池用電極材料としての特性を評価したところ、WO3・H2Oから得られたプレート状粒子膜は400 nm付近の可視光、(NH4)0.33WO3から得られた微粒子膜は350 nm以下の紫外光のエネルギー変換効率に優れることが明らかになった。この結果は、電極材料の微細構造を制御によって、太陽電池としての応答波長をコントロールできることを示しており、太陽光下でのエネルギー変換に適した電極材料の開発につながる重要な知見といえる。 以上の成果を取りまとめた論文が2020年3月20日付でRSC Advances誌に掲載された(RSC Adv., 2020, 10, 11444)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度においては、対象とする物質を当初予定していたSnOからタングステン系酸化物へと変えて、①ナノ構造の形成を促す“準安定相(中間体)”の探索、②中間体からの酸化タングステン薄膜の作製、について検討を行った。タングステンは水溶液中で多数のイオン種が存在し、水溶液中においてpHや共存するイオン種に応じて様々な化合物として析出することが知られている。多数存在するタングステン系準安定相を中間体として利用し、その結晶相およびナノ構造をコントロールすることで、より幅広いWO3材料のナノ構造制御につながることが期待できる。 上半期は、タングステン系準安定相の結晶相・形状の制御を主に検討した。溶液中での核生成・結晶成長を制御することで、WO3前駆体となる二種類の準安定相WO3・H2Oおよび(NH4)0.33WO3を、単相で、かつ、薄膜として得ることに成功した。これらの前駆体膜は、WO3・H2Oは幅約5.0 μmのプレート状粒子、(NH4)0.33WO3は50 nm以下の微粒子で構成されており、結晶相の制御により微細構造が異なることが分かった。また、いずれの膜も、焼成によってナノ・マイクロ構造を維持したままWO3膜へと変化させることが可能であった。 下半期においては、得られたナノ・マイクロ構造を有するWO3膜の太陽電池用電極材料としての特性を評価した。WO3・H2Oから得られたプレート状粒子膜は400 nm付近の可視光、(NH4)0.33WO3から得られた微粒子膜は350 nm以下の紫外光のエネルギー変換効率に優れることが明らかになった。 すでに以上の成果を取りまとめた論文が海外学術雑誌に掲載されており、順調に進展しているといえる。現在、上記のタングステン系の材料において、有機添加物としてバイオポリマーを用いて、さらなるナノ構造の制御の可能性を調査している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、初年度に検討したWO3材料、および、当初の計画であったSnO材料において、生物由来の有機高分子であるバイオポリマーがナノ構造に及ぼす影響を調査する。バイオミネラルの生成過程においては、バイオポリマーが無機結晶の表面に配位・吸着し、“結晶成長を適度に抑制”することが、メソクリスタル構造と呼ばれる特異なナノ構造の形成を引き起こす、と考えられている。また、金属イオンの拡散が抑制される“高粘度の溶液”中では、「拡散律速」の結晶成長へと成長様式が変化し、樹枝状に枝分かれした複雑な結晶が生じやすくなることが知られている。したがって、バイオポリマーの添加は、「拡散律速の結晶成長」を引き起こす“高粘度の反応場”としても作用することが期待できる。2020年度は、バイオミネラルに類似した階層的なナノ構造の形成に最適な結晶成長の環境を整えるために、「バイオミネラルの種類(金属イオンへの配位・吸着能)」「バイオミネラルの濃度(溶液粘度)」がWO3およびSnO結晶のナノ構造に与える影響を系統的に調査する。 “バイオポリマー”にはゼラチン、アガロース、キトサン、“酸化物の中間体”としてはWO3材料ではWO3・H2Oおよび(NH4)0.33WO3、SnO材料ではSn6O4(OH)4を用いて、それらを含んだ“バイオポリマーマトリクス”中での結晶成長によって、酸化物ナノ結晶の集積体の作製を目指す。 “バイオポリマー”の取り扱いについては、研究の進行状況によっては、申請者がこれまでに使用したことのない物質を扱う可能性がある。この場合は、所属学科に“生体由来の有機高分子”を専門とする研究グループが多数あるため、必要に応じて、それらのグループと連携し、バイオポリマーに関する専門知識を習得することを予定している。
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Research Products
(3 results)