2020 Fiscal Year Research-status Report
バイオポリマーマトリクスを用いた新規ソフト溶液プロセスによるナノ結晶集積体の作製
Project/Area Number |
19K05660
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
内山 弘章 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (10551319)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | バイオミネラリゼーション / 溶液プロセス / ナノ構造 / 構造色 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、バイオミネラリゼーションを模倣したソフト溶液プロセスによって、バイオミネラル類似の階層的なナノ構造を有するバルク体の作製を目指す。バイオミネラリゼーションにおいては、“アモルファス相などの準安定相を経由する多段階のプロセス”がバイオミネラルの形成に重要な役割を果たすことが明らかにされている。2020年度においては、これまでに酸化物系で得られた知見を基に、顔料や塗料などの色材として利用されている無機化合物(リン酸化合物)を対象とし、「ソフト溶液プロセスによるナノ構造体の作製」および「ナノ構造が光学特性(色彩)に及ぼす影響の調査」を行った。 Mn系リン酸化合物の検討においては、MnCl2および(NH4)2HPO4を含む水溶液にキレート効果を持つクエン酸を添加し80℃で静置することで、数100μmのブロック状の形状をもつ淡いピンク色のMn5(PO3OH)2(PO4)2・4H2O粒子が得られた。クエン酸の添加により、ブロック状粒子のサイズが、100 μmから500 μm程度に増大し、粒子の色彩が強くなることが分かった。Cu(Al, Fe)系リン酸化合物の検討においては、Al系ではAl2(NH4)(OH)(PO4)2・2H2O、Fe系では(NH4)Fe2(OH)(PO4)2・2H2O単相の粒子が得られ、それらにCu2+イオンを添加することで、Al系は白色から水色、Fe系は淡い黄色から緑色へと着色することを見出した。これらの結果は、ソフト溶液プロセスによるナノ構造制御によって、無機化合物の色彩を制御できることを示しており、バイオミネラル類似のナノ構造体を用いた新規な色材・光学材料の開発につながる重要な知見といえる。 以上の成果を論文としてまとめ、2021年度に海外の学術雑誌への投稿を予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度においては、対象とする物質を当初予定していたSnOから、顔料や塗料などの色材として利用されている無機化合物(リン酸化合物)へと変えて、「ソフト溶液プロセスによるナノ構造体の作製」および「ナノ構造が光学特性(色彩)に及ぼす影響の調査」を行った。真珠に代表されるバイオミネラルは、その特異なナノ構造に起因する光の干渉現象によって、鮮やかな構造色を発現することが知られている。天然の顔料として用いられる無機化合物において、バイオミネラル類似の階層的ナノ構造を再現できれば、「真珠類似のメソクリスタル構造に由来する光沢」と「天然顔料の鮮やかな色彩」を併せ持つ新しい無機顔料の開発につながることが期待される。 本年度は、色材として広く利用されているMn系、および(Al,Fe)系リン酸化合物について検討を行った。Mn系リン酸化合物の検討においては、MnCl2および(NH4)2HPO4を含む水溶液にキレート効果を持つクエン酸を添加し80℃で静置することで、数100μmのブロック状の形状をもつ淡いピンク色のMn5(PO3OH)2(PO4)2・4H2O粒子が得られた。クエン酸の添加により、ブロック状粒子のサイズが、100μmから500μm程度に増大し、粒子の色彩が強くなることが分かった。Cu(Al, Fe)系リン酸化合物の検討においては、Al系ではAl2(NH4)(OH)(PO4)2・2H2O、Fe系では(NH4)Fe2(OH)(PO4)2・2H2O単相の粒子が得られ、それらにCu2+イオンを添加することで、Al系は白色から水色、Fe系は淡い黄色から緑色へと着色することを見出した。 現在、上記のリン酸化合物粒子において、有機添加物としてバイオポリマーを用いて、さらなるナノ構造および色彩の制御の可能性を調査している。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、2020年度に検討したMn系、および(Al,Fe)系リン酸化合物、また、新たに天然の顔料として知られるCu系炭酸化合物において、生物由来の有機高分子であるバイオポリマーがナノ構造に及ぼす影響を調査する。 バイオミネラルの生成過程においては、バイオポリマーが無機結晶の表面に配位・吸着し、“結晶成長を適度に抑制”することが、メソクリスタル構造と呼ばれる特異なナノ構造の形成を引き起こす、と考えられている。また、金属イオンの拡散が抑制される“高粘度の溶液”中では、「拡散律速」の結晶成長へと成長様式が変化し、樹枝状に枝分かれした複雑な結晶が生じやすくなることが知られている。したがって、バイオポリマーの添加は、「拡散律速の結晶成長」を引き起こす“高粘度の反応場”としても作用することが期待できる。2021年度は、バイオミネラルに類似した階層的なナノ構造の形成に最適な結晶成長の環境を整えるために、「バイオミネラルの種類(金属イオンへの配位・吸着能)」「バイオミネラルの濃度(溶液粘度)」が無機化合物のナノ構造に与える影響を系統的に調査する。 また、鮮やかな色彩をもつリン酸化合物および炭酸化合物にバイオミネラルに類似した階層的なナノ構造を付加することで、真珠のような光沢が発現することが期待できる。ここでは、得られたナノ構造体の光学特性(色彩)についても随時、評価していく。 “バイオポリマー”の取り扱いについては、研究の進行状況によっては、申請者がこれまでに使用したことのない物質を扱う可能性がある。この場合は、所属学科に“生体由来の有機高分子”を専門とする研究グループが多数あるため、必要に応じて、それらのグループと連携し、バイオポリマーに関する専門知識を習得することを予定している。
|
Research Products
(4 results)